輝く人142 鷲尾真知子さん

インタビュー

1日1日を大切に、喜怒哀楽を感じて生きる
シリアスからコメディまで、どんな役も自在に演じ分ける名バイプレイヤーとして、独特の存在感を放つ女優・鷲尾真知子さん。
50年を超える芸能生活を振り返りながら、次回出演舞台の『ザ・ウェルキン』について伺います。

苦しいことばかりでもやっぱり役者が好き

学生時代、夢中になっていたことはありますか?

とくにないんですよね。私は中高一貫の女子高に通っていましたが、思い出されるのは友達と過ごした時間ばかり。学生の本分でもある勉強は全然頑張っていなかったので、自分でも呆れてしまうほど何も覚えていません(笑)。そして部活は、お茶菓子を食べたいがために入った茶道部でゆるく活動していた程度。また、風紀委員でしたが、その仕事ぶりはいい加減で、風紀を正すというよりも、風紀チェックの際に友達の違反を隠して助けてあげていました。学生生活は常にそんな感じで、ごくありふれたものでした。一方で、子どものころに始めた日本舞踊だけは特別な存在でした。習い事はいろいろやらせてもらいましたが、唯一高校まで続いたのが日本舞踊で、私がもっとも一生懸命になれた時間だったかもしれません。舞台の上でライトを浴び、舞っているときの高揚感がたまらなく気持ち良かったからです。あの経験から役者を目指す道筋ができたような気がしています。

役者になると決めたのはいつですか?

 高校2年生のときです。進学するか就職するかを考えていたときに、選択肢の1つとして母に提案されました。当時、日本舞踊を極めて師範を目指す道もありましたが、私は指導者ではなく演者として、ずっと舞台の上に立っていたかった。それを叶える方法として役者というジャンルを思いつき、劇団NLTの養成所に入ったんです。それが高校3年生のときだったので、勉強と養成所の掛け持ちで生活が一転。目が回るほど忙しくなりました。学校でも養成所でも怒られてばかりの大変な毎日でしたが、あの1年間はわが青春のすべて。いまとなってはいい思い出です。

役者になってつらかったことは?

つらいことばかりですよ。それは楽しかった思い出よりも、苦しかったり悲しかったりした思い出の方が、より強く記憶に残っているからかもしれません。例えば、養成所時代、先生に理不尽に怒られて、泣きながら雨の中を六本木から渋谷まで歩いて帰ったことがありました。そのときの雨の冷たさや流した涙はいまも実感として残っています。でも、そうした出来事の積み重ねで、いまの自分があるんですよね。50年を超える芸能生活は正直、迷いと苦労の連続でした。それでも途中で投げ出さず、作品1つ1つに一生懸命に向き合ってこられたのは、やっぱり、役者という仕事が好きだからなのでしょう。

鷲尾真知子のすべてをキャラクターに生かす

プライベートではまっていること、やってみたいことは?

ハマっていることはありません。おそらく私にとっては仕事が第一で、プライベートはあってないようなものなんだと思います。たとえば、旅行に行くのは好きですが、その一番の目的が舞台を観ることだったりするので、結局は仕事につながっているんですよね。また、やってみたいこともありません。コロナ禍ですべてが遮断され、当たり前にできていたことができなくなったいま、切に思うのは、新しいことに挑戦することよりも、いまこの瞬間をちゃんと生きようということです。女優としての鷲尾真知子も、一個人としての鷲尾真知子も、どちらも私に変わりありません。オンオフ関係なく、鷲尾真知子のすべてが演じるキャラクターに生かされると思っているので、1日1日を大切に、喜怒哀楽を感じて生きるよう心掛けています。

7月の舞台『ザ・ウェルキン』に向けて、健康面などで気を付けていることはありますか?

 とにかくストレスをためないことですね。いまはひたすら稽古に打ち込む毎日ですが、その日によって体調がいい日悪い日、相手とのコミュニケーションが上手くできる日できない日などがあって、感情が大きく揺れ動きます。スタッフや共演者と本気でぶつかり合うことで疲れてしまうこともしばしばですが、そうしたストレスは溜め込まず発散させるようにしています。大切なのは、自分に嘘をつかず、思うがままの感情を解放してあげること。嫌だと思うことがあったら、そう感じる自分を責めるのではなく、受け入れるよう努力しています。

――今回の舞台について読者にメッセージをお願いします。

この作品は18世紀半ば、250年くらい前の英国の田舎町を舞台に繰り広げられる、一人の殺人犯の少女と12人の女性陪審員たちの物語です。彼女たちはいろいろな思いを抱えていて、それが縦糸横糸となって複雑に絡み合いながら、さまざまな事実を浮かび上がらせていきます。物語が二転三転するので、サスペンスのようなドキドキ感を味わえるのが見どころの1つ。群像劇なので、どのキャラクターに共感できるかによって作品の見え方は大きく変わるのではないでしょうか。舞台は生ものなので、1回として同じものはありません。ぜひ劇場に足を運んで、そのライブ感を味わってほしいですね。

鷲尾真知子(わしおまちこ)
1949年6月2日生まれ。神奈川県出身。
高校在学中に劇団NLTに入団し主要メンバーとして活動。1989年退団後も、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』『喜劇 有頂天団地』などに出演し舞台俳優として活躍を続ける一方で、ドラマ『澪つくし』『カムカムエヴリバディ』『大奥』シリーズ『おみやさん』シリーズ、映画『赤い眼鏡』『千年の恋 ひかる源氏物語』など数多くの映像作品にも出演。また、アニメ『うる星やつら』のサクラ役で声優としても強い印象を残している。

 

 

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