12カ月で身につける健康リテラシー⑥ 最近よく耳にする「先制医療」って何ですか?

健康と美容

「健康リテラシー」は人生100年時代をより良く生き抜くためには欠かせないスキルです。
知っているようで知らない病気や医療の疑問に、3人の先生が月替わりで易しく回答してくれます。

https://www.goldenlife.jp/r_goldenlife/wp-content/uploads/2022/05/141_kenko_02.jpg
梶川咸子先生

「先制医療」(プレシジョン・メディシン)とは、個人の遺伝子やmRNA、タンパク質、代謝産物などの「バイオマーカー(※ 1)」を用いて、将来発症しやすい病気を「発症前診断」し、適切な治療を行う予防医療のことです。
京都大学名誉教授で元京都大学総長・井村裕夫先生が近未来での医療としてその有用性を強調されています。
発症前診断によって高リスクの病気発症を未然に防ぐことができれば超高齢化社会において健康寿命を延伸させることができるのに加え、高騰する医療費・介護費の抑制も見込めるとして注目されています。

※1 ある病気の有無や進行状態を示す目安となる指標のこと。

●今月教えてくれる先生
梶川咸子(かじかわみなこ)先生
医師、医学博士、産業医
医療法人翠清会
介護老人保健施設 ひばり施設長
日本臨床内科医会会員
日本老年医学会会員

オーダーメイド医療が可能に

これまでの予防医学は、集団を対象とした疫学研究を基礎にしたいわば「集団の予防」でした。ある病気に患っている人たちを集団として調べると、リスク因子を持つ群の方が、発症割合が有意に高いということはわかるのですが、それが個々に必ずしも当てはまるとはいえません。これが集団の予防の限界です。
予防医学はデータ蓄積の賜物ですが、現在ではさらにゲノム情報(※2) まで用いて_人ひとりの医療を高度に個別化することが可能になっています。遺伝子研究の進歩が予防医学に応用されるようになり、プロテオーム(※ 3) などの各種バイオマーカーを使って個々の人で自覚症状がないままに進行している病的状態を予測し、疾患が発症する前にその人に合った対策を立てることが可能になりました。つまり先制医療は、その人の特徴に応じて病気を予測し、先手を打って集中的な治療をする「個の予防」(オーダーメイド医療)といえます。

先制医療の効果が期待される病気

がん
アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんが2013年5月14日、「ニューヨーク・タイムズ」紙を通して、乳がんになるリスクを減らすために「予防的乳房切除術」を受けたことを発表し、日本でも大きな話題となりました。
検査を受けて遺伝子に異変が認められる「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HereditaryBreast and OvarianCancer syndrome11HBOC) は、予防的切除により生存割合が高くなるとされ、診療ガイドラインでも推奨されています。予防的乳房切除術の対象となるのは、①遺伝子検査で、がん抑制遺伝子のBRCA1とBRCA2のどちらか、もしくは両方に変異が見つかった、②血縁者に乳がんや婦人科がんになった人がいる、③乳がん検診で、いつも再検査を勧められる、④すでに左右のうち一方が乳がんになったのどれかに該
当する人といわれています。
アルツハイマー病
この病気は、ある程度の発症前診断が可能になっています。しかし、いまだ十分な予防・治療法がなく、その人を安心させることができないため、日本では健康な人に発症前診断を行っていません。現在は、認知症の前段階である「軽度認知障害」(MCI) の人にのみ発症前診断を行い、該当者には適切な治療を施して効果を検証している段階です。
バーキンソン病
パーキンソン病は、70歳以上では1%ほどの有病率とされ、高齢化が加速するにつれ、ますます増えると予想されています。
いまのところ根治療法がなく、治療の目的は症状を軽減して患者さんの日常生活における動作や生活の質を維持・改善することです。そのため早期にパーキンソン病の診断を受け、適切な治療を開始することが重要で、先制医療の効果が強く期待されます。
糖尿病
糖尿病の発症には、食事や運動などの環境因子の影響が大きく影響しているため、いまのところ発症前診断はできません。しかし、軽度の血糖値異常を見つけて対策をすることは可能です。

ライフコース・ヘルスケア

これまで生活習慣病に対するヘルスケアは、「成人病健診」のように40歳を過ぎてから始めればよいと考えられていました。しかし実際は、お母さんのお腹の中にいる胎生期から、出生後の生涯を通じて節目ごとに対策をする「ライフコース・ヘルスケア」に努めなければ、老後の真の健康は達成できないといわれています。
例えば学齢期に肥満になると、しんきんこうそく後に糖尿病や心筋梗塞の発症率が高くなりますし、思春期の喫煙も生活習慣病の発症に大きく影響してきます。
生活習慣病は、長い間に様々な要因が蓄積された後に発症します。人生100年時代においては、子どものころからのライフコース・ヘルスケアと先制医療の意義を理解するための「健康リテラシー」が、より重要になってきているのです。

※2 遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から作られた言葉で、DNAのすべての遺伝情報のこと。
※3 protein(タンパク質)とgenome(ゲノム)を組み合わせた造語で13 vol.141 、生体に発現するすべてのタンパク質のこと。

 

関連記事

TOP