12カ月で身につける健康リテラシー⑤ 動きたくないのに「運動」って必要ですか?

健康と美容

「健康リテラシー」は人生100年時代をより良く生き抜くためには欠かせないスキルです。
知っているようで知らない病気や医療の疑問に、3人の先生が月替わりで易しく回答してくれます。

https://www.goldenlife.jp/r_goldenlife/wp-content/uploads/2022/02/138_health04.jpg
梶川博先生

体を動かすことは人間にとって本能的欲求です。自律神経・内分泌・免疫などの「生体恒常性(※)」(ホメオスタシス)を正常に保つために、適度な運動は必要不可欠なのです。
私たちの祖先ホモ・サピエンスは、日々体を動かして食糧を求めていました。しかし、人類の脳には面倒なことを嫌うシステムが備わっているため、食が足りている現代人は「心身の強化システム」を眠らせておこうとします。つまり「動きたくない」気持ちが働きます。ですから現代に生きる私たちは、自ら意識して体を動かす必要があるのです。

※生体恒常性とは、体外環境や内部変化にかかわらず、身体の状態(体温・血圧・血糖・免疫など)を一定に保つこと。

●今月教えてくれる先生
梶川博(かじかわひろし)先生
医師、医学博士
認知症サポート医
医療法人翠清会 梶川病院 会長
日本脳神経外科学会・日本脳卒中学会・日本認知症学会 会員

挙げればキリがない運動の医学的効果

 現代に生きる私たちは文明の利器による便利さに慣れ、日々の運動(身体活動)量が激減しました。さらに飽食の時代となり、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を生み出しています。
そこで、意識的に運動量を増やす必要があるのですが、そもそも運動は、なぜ健康に良い効果をもたらしてくれるのでしょうか。  
運動をすると、血管の内皮細胞からNO(一酸化窒素)が放出されます。このNOには血管を拡張させて血圧を下げ、血管をしなやかにする作用があります。
運動を習慣的に行えば、糖を分解するインスリンが効きやすい体質になり、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす効果もあるので動脈硬化を予防します。
また、運動によって心臓から分泌されるANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)には、体から余分な水分や塩分を排泄する作用があり、これにも血圧を下げる効果があります。腰や膝(ひざ)などの慢性痛に対しては、運動によって分泌されるドーパミンが痛みを抑える働きをしてくれます。
運動による骨への刺激は、骨粗しょう症の予防につながります。    
運動によって全身の血流が良くなると、脳が活性化し、うつ病や認知症なども予防・改善します。
このように運動の利点を挙げれば、枚挙にいとまがありません。

特別な運動をしなくても家事でも十分な身体活動になる

 意外に運動量が多いのが「家事労働」です。例えば、掃除機がけを15分〜20分ほど行った場合、50〜60㎉を消費します。これはウオーキング10分〜15分に相当する運動量だといわれています。風呂掃除や窓拭きの場合、10分程度で約40㎉を消費します。
家事は体のさまざまな部分をまんべんなく動かしますので、血流が良くなり、ホルモンの分泌も促進されます。家事というと億劫(おっくう)になりがちですが、健康維持のための運動だと考えれば、積極的にできるようになり一挙両得です。 
厚生労働省の政策「健康日本21」によれば、長期的には10分ほどのウオーキングを1日に数回行うだけでも健康上の効果が期待できるといいます。家事や庭仕事、買い物のための歩行などの日常生活活動、余暇に行なう趣味・レジャー活動、運動・スポーツなど、すべての身体活動が健康に欠かせないものと考えられています。要は体をこまめに動かすことが大切です。

運動のやり過ぎは禁物老化促進、発がんリスクも

 しかし一方で、運動のやり過ぎには注意してください。過度な運動は、体内に大量の活性酸素を発生させて細胞の酸化障害を促進し、健康を害するリスクとなります。
さらに、がん細胞を退治するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などの免疫系機能を低下させ、老化を早め、発がんリスクを高める可能性も指摘されています。
過度な運動とは、長時間のランニングや、体を痛めつけるような筋力トレーニングがこれにあたります。1日の運動では何も感じなくても、負荷が日々積み重なると関節がすり減ったり、何日も疲労感がとれなかったりするようになります。
運動とは本来、毎日の生活そのものであり、暮らしの中で体を動かす身体活動すべてが運動そのものなのです。それらを積極的に実践するだけで、十分に健康増進効果が得られることがわかっています。まずは体を動かすことに意識を向けて、毎日の生活を健康的に過ごしましょう。

 

関連記事

TOP