【取材】江戸前佃煮職人の珈琲物語 ハンド(手)自家焙煎コーヒーが 生まれるまで

旅・生き方

江戸前佃煮の老舗「佃宝」(東京都江東区)の佃煮職人が、丹精こめてハンド焙煎したコーヒーの味とは──。
「WANTOK2940(つくほう)珈琲」が誕生するまでのストーリーに迫ります。

培ってきた30年間の技術と融合させて新しいものを

コーヒー豆を自家焙煎しようと思ったきっかけは?

【鈴木】パプアニューギニアから豆を輸入している株式会社プライズの本橋社長と出会い、その人間性に惹かれて一緒に仕事をしてみたいと思ったのが始まりです。佃煮は乾燥した魚を手で煎って作るのですが、この技術を活かして「普通は機械でやるコーヒー豆の焙煎を手でやったらどうですか?」と提案してみたら、「聞いたことがないから面白いんじゃないか」と興味を持ってくださって。弊社の
社長も「コロナでこんな時代だから何でもやったらいい」と後押ししてくれました。

もともとコーヒーがお好きだったのでしょうか?

【鈴木】いえいえ。缶コーヒーやコンビニのコーヒーを飲むくらいで。だから最初に「本橋社長が扱うコーヒー豆は、コンビニより美味しいんですか?」と聞いたら「何言ってるんだ!格段に美味しいよ」と言われたぐらい(笑)。本橋社長は知識の塊で、私も好奇心旺盛。佃煮作りは30年やっているから、その技術と融合させて何か新しいものが生まれないかなと。それで始めました。
【本橋】佃宝さんには熱伝導の良いすごくいい銅板がありますし、美味しい佃煮を作れる職人さんなら、同じように美味しいコーヒーも作れるだろうと思いました。それに、手で焙煎した豆を販売している業者はほとんどないので貴重です。また、私が輸入しているアラビカ種に属するティピカ種の生豆(最古の栽培品種)は、日本ではほとんど出回っていない希少品種です。標高1500m 以上の寒暖差が激しい高地でオーガニック栽培されている、果物のように甘い豆。パプアニューギニア人の友人の紹介で現地へと幾度となく通い、実際に見に行って輸入するようになりました。世界各国を渡り歩いた焙煎のプロの方が「これはすごい豆だから、本当に輸入できるのであれば入れて欲しい」と言うほどの豆で、プランテーションではなく小規模農園から良いものだけを集めています。

目指したのは苦味と甘みの良いバランス

手焙煎で苦労したことは?

【鈴木】最初は焙煎に適した温度帯がわからず、そこに行き着くまでが大変でした。コーヒーは焙煎時間や、熱と圧力の加え方によって焙煎の深さ(焙煎深度)が変わり、豆の風味も変化します。目指したのは、深煎りと浅煎りの中間ぐらい、苦味と甘みがちょうど良いバランスの味でした。ですが「コーヒーは苦味があるもの」という思い込みがあり、イメージと実際のギャップがありすぎて……。最初は佃煮作りの経験でやっていましたが、経験だけでは無理だなと。

転機になったのは?

【鈴木】清澄白河(きよすみしらかわ)(東京都江東区)の有名店でコーヒーを飲んだときに、「うちのと味が似ている。進んでいる方向は間違っていない!」と確信したんです。本橋社長がよく「酸味と苦味のバランスがちょうどいい」と言っていたことが、そこでようやくわかりました。その後、先ほども話に出た焙煎のプロに「焙煎は、日本料理の繊細さだけでなく、中華のダイナミックさも必要」と助言をいただいたことで、一気に視界が開けました。低温でゆっくり煮詰めていく佃煮とは真逆だったんですよね。
【本橋】そもそもハンド焙煎と焙煎機とでは、手焼き煎餅と機械で焼いた煎餅ほどの違いがあります。手焼き煎餅=ハンド焙煎が豆本来の味といえるかもしれません。一般的に「コーヒーは苦いもの」というイメージがあると思いますが、この豆は甘味があるので、佃宝さんのハンド焙煎珈琲はその良さが出ています。味が尖っていなくてまろやか。後味もスッキリしているので、ぜひストレートで飲んでいただきたいですし、水出しコーヒーにしてもすごく美味しいと思います。

ほかに特徴はありますか?

【本橋】コーヒーには認知症の予防改善に良いとされるトリゴネリンという成分が含まれていますが、これは高温になるとほとんどなくなってしまうそうです。佃宝さんの銅板は口が開いているので急激に温度が上がりにくくトリゴネリン成分への期待値が高いですね。

どこで購入できますか?

【鈴木】東雲(東京都江東区)にある佃宝本店のほか、歌舞伎座劇場内1階の佃宝売店と、豊洲市場隣接の江戸前場下町店でもご購入いただけます。また、本橋社長が運営している神田のWANTOKや、巣鴨商店街の泰平飯店さんにも置かせてもらっています。また、弊社にお電話やFAX をいただければ発送も可能です。

今後の展望を教えてください。

【鈴木】時代とともに日本人の食が変わったように、これからは鮨屋のあがりにコーヒーを求める人も増えると思います。いずれは銀座のお鮨屋さんで、あがりのお茶代わりに、佃宝珈琲を召し上がっていただけるようになれば嬉しいですね。

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