木村重男先生の上手な老い方手帖「避けられない介護の問題」

旅・生き方

人は生きてきたとおりに齢をとる。「いい年のとり方をしましたね」と言われるように。
良いも悪いも受け取めて、一日一日を大切に生きる、木村重男先生の珠玉のコラム。

⑤避けられない介護の問題

 東京都内では、在宅介護の約3割を男性が担っているといいます。介護の問題は、どなたにとっても深刻です。
もと職場の同僚だったSさん(78歳)は、寝たきりの妻の介護のために天候に関係なく毎日、自宅から4キロの道のりを自転車で病院まで通っています。
妻は3年間、入退院を繰り返した末に寝たきりとなり、いまでは会話もできず、口から管を通して流動食を注ぎ込んでもらう状態が続き、夫が話し掛けてもやっとうなずくだけです。
そんな病妻のそばにいて、毎日のできごとを話し掛け、買物をはじめ洗濯物を取り換えたりするのが鈴木さんの日課となりました。
彼は「若い者が代わってやろうかと言ってくれるけれど、自分で世話をしてやりたくて、日課というより〝生きがい〟なんです。こんな寝たきりのつれ合いでも、おらなんだら本当にさびしいと思います。何十年もの間、共に苦しみ、共に笑ってきた夫婦の間柄ですから、一日でも長く生きてほしいんです」と、言います。
 立場や理屈を超えて労い たわり合い、慈いつくしみ合い、許し合えるのが真の夫婦なのでしょうが、それも長期間となると、自分の体力も気力も衰えてきますので、口で言うほど容易ではありません。
まして、相手の苦しみを自分の苦しみだと受けとめ、夜中でも声を掛けたり、痛いところを長時間さすったり、もんだり、部屋の片づけから下の世話まで喜んでやれる人は、夫(妻)以外にはありませんでしょう。
まして「わが命に代えてでもいま一度、もとの元気な体にならしめたまえ」と、ひたすら念じ、祈り続けて介護に専念してくれる人がいてくれるとしたら、どんなにありがたく、尊く美しいことでありましょう。

木村重男(きむらしげお)
一般社団法人倫理研究所 参与。
文部科学大臣から社会教育功労賞を受賞。著書に『夫婦の玉手箱』『豊かな人生を拓く玉手箱』など多数。

 

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