【新連載】木村重男先生の上手な老い方手帖

旅・生き方

人は生きてきたとおりに齢をとる。「いい年のとり方をしましたね」と言われるように。
良いも悪いも受け取めて、一日一日を大切に生きる、木村重男先生の珠玉のコラム。

❶「手」はお宝さん

 執筆や講演、研修や研究が私の長年の仕事でした。本も沢山出版しましたが、ある研修会でのできごとが、いまでも強く印象に残っています。
それは高齢者百人あまりの健康についての話でしたが、私は「皆さん、両手を机の上に出してよく見てください」と言いました。
それそれが両手を出して、形や色つやなどについて、おしゃべりが始まりました。が、一人だけ、前の方で頑(かたく)なに手を出さない女性がいました。
わけを聞くと、「私の手は労働者の手で、とても人前に出せません」とすこぶるご不満のようす。
若い頃、夫に先立たれ、女手一つで四人の子を育ててきた。人に笑われないように、後ろ指をさされたくない一心で、日雇い労働を始め、パートのかけもちまでして必死に働いてきたので、男の手同様にゴツゴツした不細工な手だから……と。
私はその女性に「なにも卑下することはありませんよ。すばらしい手ではありませんか。女手ひとつで人の何倍も働いて四人の子を立派に育て上げた魔法の手ですよ!」と言いました。するとその方は人目も憚(はばか)らず泣かれました。
ある地方では、手のことを「お宝さん」といって、手を大切にしています。いい習慣であり、いい言葉ではありませんか。
私たちの幸福の創造・実現、そのほか、すべて手の働きがあってのことです。なかには重いものを運んだり、長時間の手作業などで生計を立て、人一倍手を酷使してきた人も大勢いるはずです。もし、どの指か一本でもなかったり、不自由だったら、今日の生活はなかったかもしれません。それに気付けば、五体満足に生み育ててくれたご両親への感謝の念が深まることでしょう。
「手」は幸福を生み出すもと、お宝さんなのです。お顔の手入れ同様、手を慈しみ、やさしく愛撫しましょう。
私はその婦人に「人一倍よく働いてくれた手に感謝し、長年の労をねぎらい、今夜から両手を胸に抱いてお休みなさい。必ず幸せになりますよ」と話しました。「幸せだから感謝するんじゃないよ。感謝しているからこそ幸せなんだ」。手も足も腰にも感謝し愛撫して、もっと自分の体と仲良くなされば、活力がわいて豊かに長生きされますよ。

木村重男(きむらしげお)
一般社団法人倫理研究所 参与。
文部科学大臣から社会教育功労賞を受賞。著書に『夫婦の玉手箱』『豊かな人生を拓く玉手箱』など多数。

 

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