インタビュー

輝く人117 佐藤二朗さん

佐藤二朗さん

20代は人生の「暗黒時代」。でも、いまは夢のようです!
映画やドラマにひっぱりだこ。独特の存在感でファンを魅了する個性派俳優・佐藤二朗さん。
俳優として成功するまでの苦節の日々と、最新映画『はるヲうるひと』の見どころを伺いました。

「運命」と「現実」の狭間でゆれた10代。

どんなお子さまでしたか?

 ひと言でいえば「落ち着きがない子」。小学校の通信簿には、6年連続でそう書かれていましたね。でも言い換えれば、いつも賑やかで明るくて勉強もわりとできる子でしたよ。頭のよさというよりは要領のよさ、記憶力のよさで校内テストを上手にさばき、中3のときには主要5教科でオール5もとりました。ただ、スポーツや学園祭などに打ち込んだ記憶はなくて、つまらない少年だったと思います。

俳優になりたいという思いはあったのですか?

 子どものころの僕にとって、俳優は「夢」ではなく「運命」でした。小学生のころから、山田太一さんや倉本聰さんのドラマを食い入るように見ていましたが、その影響なのか何なのか、「僕は俳優になるために生まれた人間だ!」って、バカみたいに思い込んでいたんです。その一方で、「俳優でメシが食える訳がない」という冷めた目も持っていて、双方が同じくらいの強い力で拮抗していました。いま思えば、10代はずっとそうした矛盾と戦っていた気がしますね。ただ、僕にはアルバイトをしながら、劇団に入って俳優に挑戦するという勇気がなかった。だから普通に就職する道を選びました。当時の就活は、新卒絶対という風潮がありました。そして、リクルートというすばらしい会社に入社させてもらうこととなり、無事、僕の新社会人生活が始まるはずでした。

「始まるはず」とは、始まらなかったのですか?

 入社初日に辞めてしまったんです。配属先の上司や同僚を紹介されて、いよいよ社会人という立場が現実的なものになったとき、「これで俳優の道はあきらめるんだ」というわかっていたはずのことが、どうしようもない実感としてふつふつと湧いてきたんだと思います。で、気がついたら外に出ていて、その日の夜の鈍行で地元に戻っちゃった。社員寮に荷物を残したまま姿を消したわけです。ひどい話でしょ。この一件は、僕にとって人生最大の「汚点」です。リクルートは人気の企業でしたから、入社を希望する学生はたくさんいました。そんななか、身勝手な僕が貴重な内定枠を1つ奪ってしまったんだと思うと、いまは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

暗黒の20代を経て掴んだ俳優の地位

俳優への熱い想いに気付かされ、「運命」の道を選んだということですよね?

 いやいや、人生そううまくはいかない。むしろ、これが「暗黒の20代」の始まりでした。俳優養成所に入っても鳴かず飛ばずで、なかなか劇団員に昇格できない。別の養成所に移っても結果は同じで、このときは、精神的にもかなり打ちひしがれました。「やっぱり俳優は無理なんだ」と悟った僕は、25歳で再び俳優をあきらめ、小さな会社に就職しました。そして、失望感を打ち消すかのように必死に働いたんです。ところが、俳優への思いは完全に断ち切ることができず、27歳でまた気持ちがぶれ始めました。結果、自ら劇団「ちからわざ」を旗揚げし、仕事が終わると、背広のまま稽古場に通う日々が始まりました。そして28歳。演出家の鈴木裕美さんの誘いで劇団「自転車キンクリート」に入ったのを機に会社を退職。アルバイトで生計を立てながら、俳優活動に専念することにしました。就職か俳優か、就職か俳優か……。20代は自分の進むべき道を探して、ひたすらもがき苦しんでいました。

転機が訪れたのは?

 きっかけは、自転車キンクリートの舞台で、演出家の堤幸彦氏の目に留まったことです。「あいつ、面白いな」と僕に興味を示してくれ、当時撮影していた本木雅弘さん主演の単発ドラマ『ブラック・ジャックⅡ』で、「医者A」という役で使ってくれたんです。たったワンシーンのみの登場でしたが、それが本木さんの事務所の社長の目に留まり、スカウトされました。それが31歳のとき。以降、映画やドラマにどんどん出られるようになり、僕のやりたいことができるようになっていきました。改めて振り返ってみても、20代は人生でもっともつらい「暗黒の時代」でした。それと比べれば、いまは毎日が夢のようです。ましてや、最新映画『はるヲうるひと』では、僕自らが撮りたいものを書いて撮ることができたんですから、その時間は最高に楽しかったですね。周りの俳優陣やスタッフの方々、皆が僕の脚本を信じ、よさも可能性もわかってくれて、一致団結して作品作りに取り組めたことにも、心から感謝しています。

その映画『はるヲうるひと』の見どころを教えてください。

 僕って、コメディのイメージが強いじゃないですか。それはそれでありがたいことですが、そのイメージを、いろんな意味で裏切りたいんです。今回の作品では、人が追い込まれたとき、何か負を抱えて生きづらさを感じたときに、たとえ、それが解決できなくても、「明日も生きてみよう!」と少しだけ前を向く姿を描きました。この作品を通して、熱く揺さぶられるものを思い起こし、仕事でも何でもいいので、体の内側から湧き出る、体温が上がるような感覚を味わっていただければ幸いです。

佐藤二朗(さとうじろう)
1969年5月生まれ、愛知県出身。社会人経験を経て、1996年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、その後、劇団「自転車キンクリート」に入団。ドラマ『ブラック・ジャックⅡ』出演以降、『電車王』『夜王』『ごくせん』など数々の作品に出演。さらに『幼獣マメシバ』の芝二郎役、『勇者ヨシヒコ』シリーズの仏役など、個性的な役で注目を集める。一方、『ケータイ刑事 銭形シリーズ』などで脚本家としての才能も発揮。バラエティ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』のMCも好評。

 

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