コラム

精神科医が教える老後の人生スッキリ整理術③

ものを整理し、心を整理すれば、老後に向かう心もスッキリと見通しがよくなります。
それまでの自分の生き方を見直し、本当に必要なもの、大事なものだけを見きわめる、生き方の「棚おろし」をはじめませんか?

お金のことに心をとらわれない

「お金がないのは首がないのも同じ」という言葉があるそうです。
 言うまでもなく、生きていくにはある程度のお金が必要です。だからこそ、「老後資金はいくら必要か」「いくらあれば、老後を心配なく過ごせるか」というような記事やテレビ番組が繰り返されるのでしょう。
 そうした記事に、「老後にはいくらぐらいは必要だ」とあっても、自分の手元にあるのは「年金収入プラス蓄え」。一般的には、これですべてではないでしょうか。
 潤沢(じゅんたく)な年金や、いくら使っても心配ないほどの資産を持っているのは、限られた人だけ。たいていの人は、その数字を見て安心したり、心配をつのらせたりしているのだと思います。
 老人性のうつを訴える人のなかには、そうした心の揺れの振れ幅が大きく、精神のバランスを保てなくなった人を見かけます。
「いまは年金でなんとかやっていますけど、この先、年金が減らされるようなことがあったらと心配で」などと言うのです。こころの病気なのだから仕方がないと言うべきか、こんな考え方だから心が病んでしまうのか。卵が先か鶏(にわとり)が先かと同じで、どちらとも言い切れません。
 よそのサイフをのぞいても、自分のサイフがふくらむわけではないのですから、「他人はこれより多い、少ない」と一喜一憂(い っきいちゆう)しても仕方がありません。よそ様もそうそう余裕があるわけではなさそうだと思うくらいにして、自分は自分のサイフの範囲で、自分らしく生きることを考えましょう。
 年をとれば、食べる量も少なくなるし、脂あぶらのしたたるステーキよりも湯豆腐のほうがおいしくなるのが普通。豆腐なら極上品を買ったとしても、ステーキのように値は張りません。洋服も、極端に太ったりやせたりしなければ、手元のものでたいていは間に合います。
 出かける機会が減れば、出費は必然的に少なくなります。世の中、あんがい、うまくできているものなのです。
 一般的に、年金生活に移って数か月から1年もすると、新しいライフスタイルがそれなりに固まってくるようです。
 それを証明するように、年金生活への不安をもらすのは、たいてい年金生活に入ってすぐの人。しばらくすると一様に、「なんとかやっていけるものですよ」と余裕の表情さえ浮かべるようになってきます。
 何よりも、働かなくても暮らしていけるのは、考えようによっては極楽です。毎日、満員電車にもまれて働いた現役時代を振り返れば、サイフが少々きつくても、ありがたい日々だと思えてくるのではないでしょうか。

お金が足りない場合は知恵で補う

 それでも足りない場合は、どうしたらいいのでしょうか。
 以前、テレビで、介護保険の自己負担額が当初の10%から20%に引き上げられるかもしれないと報道していたとき、要介護度1でヘルパー支援を受けている一人暮らしの女性がインタビューに答えていました。
 詳しい背景は報道されていませんでしたが、たしか月額に換算すると8万円程度の年金収入がすべてという人で、当時の自己負担率10%で生活はギリギリだと話していました。20%に引き上げられたら、ヘルパー配置を少なくするか、何かを切り詰めるしかありません。彼女の選択はこうでした。「だったら、なるべく電気をつけないで暮らします。日が暮れたら寝てしまえばいいわけですよね。そのかわり、朝は早く起きる。かえって健康的な暮らしになるかもしれませんね」
 少し笑みさえ浮かべて、そう答える彼女に、「お見事!」と叫びたいような気持ちになりました。
 亀の甲より年の功という。制度改革などで、やむなく出費が増えるようなことがあったら、こんなふうに切り返してやっていく方法もあるということを、頭の隅(すみ)に置いておきましょう。
 出費を抑えるためではないですが、高名な経営者のなかには、日の出る前に起きて自分自身を見つめる時間を過ごしている人が少なくないといいます。夜、長々とテレビ漬けになっている暮らしよりも、早寝早起きのほうが体にはもちろん、心にも良い結果をもたらしそうです。

 

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