コラム

精神科医が教える老後の人生スッキリ整理術①

ものを整理し、心を整理すれば、老後に向かう心もスッキリと見通しがよくなります。
それまでの自分の生き方を見直し、本当に必要なもの、大事なものだけを見きわめる、生き方の「棚おろし」をはじめませんか?

ありがとうの達人になる

 身辺の大整理をしたり、これまでの人生を顧(かえり)みたりしていると、ささやかな我が人生も、多くの人に支えられ、助けられて成り立ってきたのかと、いまさらのように驚かされます。しみじみ、ありがたいと感謝が込み上げてくるのも、いいあんばいに年をとってきたおかげではないでしょうか。
 若いときには、「自分ががんばったからだ」と、全部自分の手柄のような気がして、どこかふんぞり返っていたものでした。
 しかし、そうした突っ張りの名残りがまだどこかに残っているから、思いほどは感謝の言葉を口にできないのが人間です。あるいは、うまく言葉に表せないのですが、そんな人は、今日の今日から「ありがとう」と声に出すように心がけてみましょう。人生の最後に光芒(こうぼう)を発する人というのは、「ありがとう」の言葉を上手に表せた人だと思うからです。
 斎藤茂太(しげた)さんは、精神科医としても、たくさんのエッセイ本を出されたことでも、大先輩にあたる人です。茂太さんのお書きになったものを拝読すると、その母上・輝子(てるこ)さんは、明朗闊達(かったつ)、直情径行(ちょくじょうけいこう)、さまざまな意味で大変な女性だったようです。
 日本を代表するような大病院の令嬢として生まれ、文化勲章を授与されるほどの歌人だった斎藤茂吉(もきち)を夫とし、茂太さんはじめ子どもを育てながら、生涯、自分がしたいように自由奔放(ほんぽう)に生き抜いたといいます。
 こう言いますと、ポジティブな評価のように聞こえるかもしれませんが、少なくともまわりの家族は輝子さんに振り回されっぱなし。冗談にしても、茂太さんは一度、日記に「1億円出すから、この母と一緒に暮らす人を募集したい」と書いたことがあったというのですから、その大変さがうかがわれます。
 輝子さんは日ごろ、「ありがとう」という殊勝な言葉を口に出すような人ではありませんでした。しかし、その死後、別荘にあったゲストブックには、こんなふうに書いてあったそうです。
「わがままな私を、茂太、美智子はじめ、宗吉・喜美子、家族一同大切にしてくれてありがとう。感謝の念で一杯です。一同、幸福の一生を祈ります。一人子の由香もとくに」
 美智子は茂太さんの妻。宗吉は茂太さんの弟で、芥川賞作家の北杜夫(きたもりお)さん。喜美子はその夫人。由香はそのお嬢さんの斎藤由香さんで、現在はエッセイストとして活躍されています。
 長いあいだ、輝子さんのわがまま放題に対して内心穏やかでない日々もあったと思いますが、この「ありがとう」で、輝子さんのイメージは好感度満点に塗(ぬ)り替わってしまったのですから、見事なもの。「ありがとう」は、このように一発逆転の威力さえ秘めた、魔法の力のある言葉なのです。
 ここまで見事なサプライズ効果のある「ありがとう」ならば、日々、頻繁(ひんぱん)に口に出しましょう。「いい年をして、いちいち言うまでもないだろう。心の中では手を合わせているよ」と言う人もいるかもしれませんが、それは傲慢(ごうまん)すぎないでしょうか。
 心の思いは、口に出してこそ伝わるものです。しかも、出し惜しみすることなく口に出せば出すほど、相手の中にも、あなたに対する「ありがとう」の心が湧いてきます。そんな波及効果がある言葉なのです。
「ありがとう」という言葉を口にする日々を重ねていると、しだいに、この世のものすべてに、しみじみと感謝できるようになってきます。
 一瞬一瞬の感謝の積み重ねを実感できるようになれば、静かでシンプルな暮らしが心身により添ってきます。こうした境地に至れば、生きることも、さらに死ぬことさえも「ありがたいこと」と思えてきて、日々は心穏やかに過ぎていくでしょう。
 そんな日々こそが、これからの人生にはいちばんふさわしいと思えてなりません。

 

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