インタビュー

輝く人105 倍賞千恵子さん

あと一歩お互いに歩み寄ることができれば、夫婦の関係はより良いものになる

映画『男はつらいよ』シリーズのさくら役などで有名な女優・倍賞千恵子さん。
5年ぶりとなる主演映画『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』についてお話しいただくとともに、プライベートな一面も伺いました。

チビは頼もしい相棒で癒される存在

映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』について、役作りで大切にしていたことを教えてください。

 主人公・有喜子になるため、彼女の主婦としての日常に、いかに馴染むかということに気を使いました。撮影のために貸切った一軒家に、あたかも何十年も暮らしてきたかのような生活感を出したかったんです。私自身、7人家族の家庭で育ち、子どものころから玄関掃除、炊事、布団敷きなどを兄弟持ち回りで分担してきました。一方で、主婦としての経験もあるので家事は案外得意なほうですが、あの家で台所に立つ、お茶を出す、布団を上げ下ろしするといったしぐさがスムーズにできなければ、観てくださる方に違和感を与えてしまうと思ったんです。

飼い猫「チビ」との触れ合いもとても自然でした。

 私は動物が大好きなんですよ。子どものころは家で犬や猫をたくさん飼っていましたし、縁の下に住むねずみにもエサをやったりしていました。振り返ってみると、そばに動物がいなかったのは、女優になって一人暮らしを始めた最初の1年だけ。それ以降は、ずっと犬や猫などの動物に囲まれて生活してきましたから、それが演技の中に表れていたのかもしれませんね。でも、自然な触れ合いができたのは、何より役猫・りんごの演技力の賜物です。りんごは、常に冷静でパニックになるようなことがいっさいありませんでした。少し落ち着きのない様子を見せていても、本番のカチンコがなると、居場所をわきまえているのかと思うくらい、スッと役に入っていくんです。最初は「チビ」という役名に戸惑っているようでしたが、だんだんと慣れて、撮影のとき以外に「チビ」と呼んでも返事をしてくれるようになりました。頼もしい相棒であり、癒しの存在でしたね。

この作品を通して、倍賞さんが感じた夫婦愛とはどんなものですか?

 藤さんが演じた夫・勝は、亭主関白の典型的な昭和の男です。ぶっきらぼうで余計なことを口にしないタイプですが、そういう人も心には熱い思いを持っているんです。それをほんの少しでもいいので、外に出していくことが大切なんだと改めて感じました。「ありがとう」「ごちそうさま」とか、「今日のメシは塩辛いな」とか、あと一歩お互いに歩み寄ることができれば、夫婦の関係はより良いものになるんじゃないかな。だから私も、主人が料理をしてくれたときは「わぁ、おいしい!」、お茶を入れてくれたり、食器を洗ってくれたりしたときは「ありがとう!」と、必ず気持ちを伝えるようにしています。

小さな断捨離で忘れていた自分に気付く

プライベートでの楽しみは何ですか?

 最近ハマっているのが、小規模な断捨離です。先日、家の外壁工事に伴ってベランダを空けることになりました。私は花が大好きで、ベランダにたくさんの植木を置いていたのですが、それらすべてを家の中に取り込むわけにいきません。そこで、本当にお気に入りのものだけを厳選して残し、ほかは欲しいという人に譲り渡したんです。それをきっかけに、家の中でも少しずつ断捨離を始めました。やってみるとおもしろいですよ。1つ1つのものと向き合うことで、自分は何が好きだったのかいろいろと気付かされました。もう1つ、旅行にもハマっています。実は、友人の提案で10年くらい前から旅行積立を始め、2年に1回くらいのペースで国内外いろいろなところに行っているんです。楽しいのは、旅行のたびにあみだくじで一人一人に役割を与えること。行き先を決めたら、何をするか、何を食べるか、どこに泊まるかなどを、くじに従ってそれぞれで計画するんです。プレッシャーもありますが、皆の意見を平等に出し合うことで、自分では考えもしないような意外な場所に行けたり、意外なものを食べられたりと新しい発見がたくさんありますよ。

最後に、読者にメッセージをお願いします。

 人生を後悔なく楽しむためには、「絶対に引かない」こと。これは、自分自身にも常に言い聞かせている言葉です。年を取ると、腰が痛くなったり、ひざが痛くなったりして外出が億劫になりますよね。私も同じです。でも、それを言い訳に家にこもってしまうのはもったいない。どんなときも、勇気をもって1歩踏み出すことが大切だと思います。もし、外に出て転んでしまったら、誰かが手を差し伸べてくれ、それが出会いのきっかけになるかもしれません。行動すれば、悪いなりにも何かが生まれるもの。その変化を楽しみましょう。

倍賞千恵子 (ばいしょうちえこ)
1941年6月29日生まれ。東京都出身。松竹音楽舞踏学校、松竹歌劇団(SKD)を経て、1961年松竹映画『斑女』で映画デビュー。62年には
『下町の太陽』で歌手デビューし、レコード大賞新人賞を受賞。その後、『男はつらいよ』シリーズで主人公の妹・さくら役に抜擢。国民的人気女優として数々の映画やドラマ、アニメ(声優)に出演し、さまざまな賞を受賞。2005年には紫綬褒章、2013年には旭日小綬章も受賞している。

 

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