コラム

日本最高齢・97歳現役ピアニストの心豊かに暮らす習慣

心豊かに 暮らす習慣

人生は「目の前の一歩」の積み重ねでできている― 毎日、続ける。
続けた先には、幸せが待っています。

「自分でできる喜び」を簡単に手放さない

 自立した生活を長く続けるために、日常のことはなるべく自分の力で行いたいと思っています。
 大腿骨骨折のため入院していたリハビリ病院を退院するにあたって、自宅のベッドの脇に、新たに手すりを取り付けました。
 朝はその手すりに手をかけて、自分ひとりで起き上がります。退院した日の翌朝から、今もずっとそうしています。
 退院直後はさすがに身の回りのことに不自由があったので、私の世話をするために友人が来てくれました。でも、その友人にも、寝起きのときにはあえて手を貸してもらうことはせず、そばで見守っていてもらいました。
 私はこれからも、ひとりで生きていかなければならないからです。
 もう長いこと、ひとりで暮らしてきました。ずっと独身で、両親ときょうだいはすでに他界しており、身近なところに親類もおりません。
 ひとりの生活を少しでも長く続けていくために、できることは可能な限り、自分の力でしていかなくてはと思っているのです。
 若いころから、「ひとりで暮らしていると、家族のことでわずらわされることがないから、ラクでいいでしょう?」とよくいわれたものです。
 そういう面もあるかもしれませんが、ひとりで暮らしているからにはどんなこともすべて、誰にも頼らず自分で行わなければなりません。
 体調にかかわらず、毎日、台所に立って料理もします。ピアニストだからといって「手をケガする心配があるので、包丁は使いません」などといっていられません。「上膳据膳(あげぜんすえぜん)」で、ピアノだけ弾いていればいいわけではありませんから。
 最大限、自分のできることをして、今日を精いっぱい生きること――。「人間、甘やかされると深くなれない」と私は思っています。深くなっていかなければ、芸術を追い求めることなんてできません。
「この年齢だからいいじゃない」と甘えてしまうと、どんどん未来が先細りになってしまうと感じます。
 年を重ねると、日常の動作ひとつとってもスイスイとはいかなくなります。何かをやろうとしても、時間がかかることもあります。
 それなら、時間をかけてやればいい。
 つまり、一歩ずつ、半歩ずつです。
「自分でできる喜び」をすぐに手放してしまわず、まずは感謝しましょう。そして、「どうしたらできるか」を考えてみませんか?

人生の再スタートに遅すぎることはない

 いつだって、これから。今がスタートライン。「定年」や「第二の人生」なんて意識しなくていいと思います。
 私はずっとピアニストとして生きてきたので、いわゆる「転職」は経験していませんが、キャリアの大きな転換点はありました。
 そのひとつが、30年近く活動していたヨーロッパから日本に拠点を移したときです。このとき、私は60歳を過ぎていました。
 一般のお勤めの方なら定年退職する年ごろに、新たなスタートを切ったのです。 1964(昭和39)年にドイツで出版された『世界150人のピアニスト』に選ばれるなど、ヨーロッパではピアニストとしてある程度の評価と地位を確立していました。でも、それに甘えていていいのだろうかと思う気持ちもあったのです。
 ヨーロッパでは私は「外国人」ですから、それもひとつの個性として受け止めてもらえます。そのことに甘えている部分も、なかったとはいえません。
 そんな甘えが通用しない母国で、芸術家として真剣勝負をしてみたい。そう考えて、帰国を決断しました。
 過去に日本でも活動していた時期があったとはいうものの、1950年代に日本を後にしたきりでしたから、実質的にゼロからの再スタートでした。
「室井摩耶子って、まだピアノを弾いていたの?」 そんなふうに驚かれもしました。
 それでも自分のペースで活動を進め、10年くらい経つころには「トークコンサート」の形を確立していました。
 舞台でお話をしながら、たとえばベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番『月光』を、まず譜面通りに弾き、次に私なりの弾き方でご披露します。そのような試みで「音がお話ししている」ことを実感していただくもので、ありがたいことに毎回たくさんの方に楽しんでいただいています。
 トークの原稿は自分で書き、リハーサルなしで15分ほどおしゃべりします。演奏とトークは頭の使い方が違うので、それを瞬間的に切り替えるのはなかなかむずかしいものなのです。この年齢でトークをこなしていることについても、よく驚かれます。
 そして気がつけば、日本に戻ってかれこれ35年超。おかげさまで、現役ピアニストとして活動を続けられています。
 近年、60代になってから「セカンドキャリア」に踏み出す人は多くなってきています。
 今や90歳以上の人口が200万人を超えるという長寿時代です。
 60代以降も、まだまだ先は長い。その時間を充実したものにしていくことを考えたら、60歳くらいは定年どころか、スタートの世代とさえいってもいいのではないでしょうか。

室井摩耶子(むろい・まやこ)
1921(大正10)年、東京生まれ。41年、東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業し、研究科に進む。45年、日本交響楽団(現・NHK交響楽団)ソリストとしてデビュー。56年、「モーツァルト生誕200年記念祭」の日本代表としてウィーンへ。同年、ベルリン音楽大学に留学。以後は海外を拠点に演奏活動。64年にはドイツで出版された『世界150人のピアニスト』に選ばれる。82年に帰国。現役最高齢ピアニストとして活躍し、多くのメディアに取り上げられている。

 

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