インタビュー

歌手 川中美幸さん

川中美幸さん

輝く人 インタビュー 7月号 Vol.94

歌やお芝居を通して皆に元気を届けたい
天性の明るさと抜群の歌唱力で、歌手として舞台女優として活躍し続ける川中美幸さん。
歌手を目指したきっかけ、亡きお母さまへの想い、そして仕事にかける情熱について伺いました。

挫折を味わってたどり着いた天職

歌手になりたいと思ったきっかけは何ですか?

 父は三波春夫さん、母は美空ひばりさんの大ファンだったので、演歌は小さなころからとても身近な存在でした。ほうきの柄をスタンドマイクに見立てて、両親の前でよく演歌を歌っていましたし、小中学生時代、のどじまん大会に出たときも、選曲は必ず演歌でした。そうした大会に出場すると優勝して、ピカピカの勉強机や電気鉛筆削り器、ステレオ、8㎜ビデオなど数々の優勝賞品を総ざらい。それをすごく喜んでくれる母の姿がうれしくて「歌手になろう」と思ったんです。当時、ある事情から両親はとても苦労していて……その様子を見ていた私は「私が歌えば両親が助かる」と子ども心に感じたのだと思います。中学2年生のときに幸い、もず唱しょうへい平先生からスカウトしていただき、17歳で歌手デビューを実現させました。

夢に向かって順調だったのですね。

 いいえ。すぐにプロという大きな壁が立ちはだかりました。デビュー当時は「大物新人!」と称されて周りはお祭り騒ぎでしたが、なかなか結果が伴わず失速。プロの世界は1等賞の人たちの集まりです。その中で抜きん出た存在になるのは簡単ではなく、心が折れてしまったんですね。プロになれば1年で美幸御殿が建つと信じていましたが、その甘い夢は無残にも打ち砕かれ、結局は2年で歌手の道をあきらめて大阪に戻ることに。そのとき母は私に、「歌だけが人生じゃない。あなたは何をやっても大成する人だ」と言ってくれました。そのひと言が、私にとって何よりの救いとなり、大きな自信にもなりました。

その後、見事再起しました。

 20歳になる少し前、再び、もず唱平先生のお声掛けで「ネオン街音楽祭」に出場することに。そこで満点をとって優勝し、もう1度、歌の世界にチャレンジしてみようと思いました。やはり「歌で母を喜ばせたい」という気持ちもありましたから。2度目のデビューは、プロの厳しい世界をよく知った上での決断です。何があっても25歳までは頑張ると覚悟を決めて挑みました。そんな私に母は、「植木にたとえたら、お母ちゃんは土であんたは花。土がしっかりしてれば、花は枯れてもまた咲くけん」と言ってくれました。私の可能性を誰よりも信じてくれて、母に支えられているという安心感があったからこそ、私はここまで突っ走ることができたんだと思います。

私の務めは、皆さんをとびきりの笑顔にすること

お母さまの言葉が人生の道しるべとなっているのですね。

 そうですね。母からもらった言葉は全て手帳に書きとめてあり、いつも見返しています。そして困難に遭ったときは、「お母ちゃんなら何て言うだろう?」と考えるんです。最近は、「仕事は人生の命やで」という母の言葉をかみしめながら、自分には何ができるだろうと思いを巡らせています。できないと思わず、何にでもチャレンジしていこうと。それで舞台に喜劇の要素を取り入れるようになったんです。私は藤山寛美(かんび)さんが大好きでDVDをよく観るのですが、笑いあり涙あり感動ありの藤山さんならではの世界観は、私が目指すべき舞台作りの大きなヒントになっています。母がそうであったように、私の歌や舞台で皆さんをとびきりの笑顔にしたい。よく「美幸ちゃんの舞台を観ると元気が出る」というお手紙をいただきますが、これこそが私の果たすべき務めであり責任なのだと思っています。今回の舞台『深川浪花物語』も笑いにあふれた作品です。ぜひ足を運んでいただき、思いきり笑ってくださいね。

皆さんにパワーを届けるために、美幸さん自身が心掛けていることはありますか。

 ありますよ。歌や舞台以外に、自分の世界を持つことです。洋裁が好きなので、何かに行き詰まったときはミシンに没頭します。少し距離を置くことで、歌や芝居の良さを再認識できるんです。それと、思い立ったら即行動すること。海や山などの自然が大好きなので、行きたいと思ったときに時間があればサッと出掛けます。しんどいなと家の中でゴロゴロしていたら、身も心も伸びたゴムのようになってしまいますからね。そこを奮い立たせて、化粧をして身支度を整え「えいやっ!」と外に出てみるんです。実はこれも、母の姿から学んだことかもしれません。母は店に出ているときが一番イキイキと元気でしたからね。引きこもらず外に出て、社会に触れることです。一歩外に出ると本当に元気が出るんです。私はその元気を、ステージから皆さんに届けたいと思っています。

川中美幸 (かわなかみゆき)
1955年12月5日生まれ。大阪府出身。
1973年に春日はるみの名前で演歌歌手としてデビューし、1977年に改名して再デビュー。1980年『ふたり酒』がミリオンセラーとなり、第23回日本レコード大賞・金賞受賞ほか、数々の音楽賞を受賞。翌年に第32回NHK紅白歌合戦初出場を果たす。1998年には『二輪草』で再びミリオンセラーを記録。その一方で、舞台女優としても活躍し、2012年には第66回文化庁芸術祭大賞(大衆芸能部門)を受賞している。

川中美幸特別公演

 

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