コラム

【最終回】老後をどう生きるか?⑤

老後をどう生きるか?

失われた生きがい。望まない延命治療。増え続ける「死ねない老人」。
人生の集大成ともいえる時期を充実して生きるために、私たちは何をすべきでしょうか。今月は、その解決策を探る最終回です。

❺他者とのコミュニケーションが活力を生む

人間にとって一番面白いのは他者とのコミュニケーション

 女性Tさんは87歳でも健康で自立した生活をおくっていましたが、「生きているのがつらい」という悲観的な心理に陥ってしまったことがありました。現在は心身ともにお元気に生活されていますが、「死にたい」願望からどういう経緯で気持ちを立て直したかをうかがうと、「やはり外に出て、人と会うこと」だと話してくれました。
「私よりも年上の90代の友人と会ったとき、元気の秘訣を教えてくれたので、それを書き留めていつも見るようにしています。『人と付き合うこと。おしゃれをすること。趣味を持つこと。植物を観察すること。30分昼寝すること。魚・野菜・果物をとること』。その友人はお稽古の会場に並べられた椅子なども、会が終われば自分でさっと動いて片付けます。誰かがやってくれるだろうではなく自分でできることは自分でするという、甘えのなさ、根性が立派です。そういう人を見て私も頑張ろうと思えるようになりました」
 そしてTさんは、いずれ体の具合が悪くなったときに、他人が決めた施設に行かされるよりも、自分が良いと思ったところに通いたいと地域のデイサービス施設を見学して回っていることも教えてくれました。
「最期のときも延命治療なんて絶対に受けたくない。今度、息子たちと話をしておかなくちゃ」と、今後年を重ねてもTさんらしく過ごせる方法を、前向きに考えている姿勢がうかがえました。
 Tさんに生きる力が戻ったのは、友人の言葉や態度がきっかけでした。
 高齢になると親しい人を次々に亡くし、家族との関係も変わり、その寂しさが生きがいの喪失につながることが多々あります。しかしその一方で、また新たな周りの人々との関わりが生きる気力を与えてくれることも多い、ということです。
 突き詰めて考えると、私たち人間にとって一番面白いのは、他者とのコミュニケーションなのだと思います。
 仕事にも、ボランティアにも、必ず他者と関わる要素があります。他者はこちらの働きかけにどんな反応を返してくるかわからない。
だからこそ、他者とのコミュニケーションは活力を生むのでしょう。

現役世代のうちから「高齢期をどう生きるか」の準備を

高齢期をどう生きるか 高齢期の生きがいの問題は、私たち現役世代にとっても決して他人事ではありません。それはそのまま将来、自分が直面する課題でもあります。
 現代では、多くの人は定年とよばれる年齢を過ぎても、まだまだその先に長い人生が続きます。そのときに何か生きがいや手応えを感じられる活動をしたいと思うのであれば、40代、50代、60代というまだまだ頭も体も元気なうちから、この先どんなふうに生きたいかを考える訓練や、準備をしておくことが大切になります。
 お茶の水女子大学の名誉教授・外山滋比古さんは、90歳を過ぎても評論や執筆活動を精力的にこなす知の巨人として知られていますが、昔に比べて生涯がはるかに長くなった今の時代の生き方として「人生二毛作」を勧めています。
 二毛作というのは、一年のうちに異なる作物を栽培することです。社会のなかでサラリーマンとして働く人が増えた今、定年後の20年、30年を充実して生きるには、二毛作のように人生の後半にもう一度、新たな〝種〟を作づけし、前半以上に豊かな人生を歩んでいくことが重要と力説しています。
 そして40代~50代には、人生後半に自分を活かせる仕事や活動を探すべく、「もうひと苦労」しておきなさいとも述べています。
 いつの時代も新しい挑戦には不安や苦労がつきものですが、「苦労のない人生はありません。苦労なくして充実した老後もありえません」と中高年世代を叱咤激励しています(『50代から始める知的生活術~人生二毛作の生き方』(だいわ文庫))。
 これまでにない長い人生をどう生きるか。それを考えるのは、決して簡単ではないかもしれません。
 しかし私たち一人ひとりが高齢期の充実した生き方を考え、できることから行動を起こしていくことは、これからの日本を80代、90代になっても「死にたい」と思わずに済む社会、高齢世代にとって「生きやすい」社会に変えていく推進力になるはずです。

『死ねない老人/杉浦敏之 著(幻冬舎)』より抜粋・改変

杉浦 敏之(すぎうらとしゆき)
1988年千葉大学医学部卒業。同大学院で医学博士号取得。
2003年より医療法人社団杉浦医院院長、2004年より同医院理事長。25年間にわたり高齢者医療に携わり、地域医療を充実させるために末期がん患者への在宅医療も行う。

 

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