コラム

老後をどう生きるか?③

失われた生きがい。望まない延命治療。増え続ける「死ねない老人」。
人生の集大成ともいえる時期を充実して生きるために、私たちは何をすべきでしょうか。
その解決策を5回にわたって探っていきます。

❸新しい挑戦が「生きがい」につながる

塗り絵やカラオケが生きがいになるか

 医療や介護の現場では、高齢期の生きがいや楽しみ、余暇活動を充実させようという動きが盛んになってきています。高齢になって生きる気力を失い、家に閉じこもるような生活が続くと、脳卒中や血栓症、糖尿病、認知症、うつ病といった種々の病気のリスクが一段と高まることがわかってきているからです。
 ただ私が気になっているのは、高齢者の余暇活動として企業や施設が提供しているものが、「遊び」「娯楽」の範囲のものに偏っていることです。
 たとえばデイサービスを行う介護老人福祉施設などでは、地域のお年寄りを集め、塗り絵や折り紙やカラオケ、映画上映会などのレクリエーションを行っています。
民間企業でも、テーマパークや温浴施設、旅行業界などがシニア割引や高齢者向けのバリアフリー旅行プランなどを提供し、時間とお金にゆとりのあるシニア層にアピールしています。
 何もせずに家にじっとしているのに比べれば、こうした娯楽、レクリエーションに取り組むのは悪いことではありません。しかし、そうしたものはあくまでも一時的な楽しみにすぎず、「生きがい」といえるものになり得るかというと、少々疑問が残ります。
 もちろん何を楽しいと思うかは、個人によって異なります。塗り絵や遊びが最高の楽しみという方はそれでいいでしょう。ただ、遊び興じることばかりを老後の楽しみとして提供する高齢者サービスは、むしろ高齢者を見下していることにならないか、と私は思うのです。
新聞に、妻に先立たれた84歳男性のこんな投書がありましたので一部引用します。
「『ぼけと酔っ払いは、先になったほうが勝ち』と私は唱えてきたが、妻を失って5年余り、人生も先に逝ったほうが勝ちではないかとつくづく思うようになった。雑談のできない私だから、茶飲み友だちをつくっても相手が困るだろう。
一人で海外旅行に出かけたり、月に数回長年の友人たちとマージャンを楽しんだりしても、満ちた心は続かない。何か心を弾ませることはないだろうか」(朝日新聞2016年12月18日)
 その場しのぎの娯楽のようなものだけでなく、さまざまな人生経験をしてきた高齢者が達成感や深い充足感を得られる活動も、もっと検討されていくべきです。

「生きがい」を考える2つのキーワード

 人間にとって、その年齢を生きるのはいつも「初めての経験」です。生活を共にしてきた家族ですら、40代~50代の子ども世代に、70代~80代の親世代の本当の気持ちや体の状態は、実感として想像できないものです。ですから、私たちのような現役世代が高齢期の生きがいを考えるのは、難しいことであるのは承知しています。
 しかし私は仕事柄、高齢でありながら前向きに日々を過ごされている患者さんや、高齢期まで忙しく活躍する医師の大先輩たちに多く接する機会があります。人生の諸先輩方の生きる姿勢と合わせて、自分自身がどういう時に生きがいや喜びを感じるかをよく考えてみると、次の2つが高齢期の「生きがい」につながるキーワードになるのではないかと思います。
 まず1つ目は「人の役に立つ」ことです。
 たとえば、高齢期にも仕事を持っていて顧客や仕事仲間の役に立っているという実感を持てる人は、生きがいや気持ちの張りを保ちやすいと思います。
 仕事のほかにも、地域や家庭でその人なりの役割を持ち、それを果たすことで貢献するというのもいいでしょう。高齢者施設でも、介護者が一方的に高齢者の世話をするだけでなく、高齢者に洗濯物を畳む、調理や配膳を手伝う、行事の準備をするといった役割を担ってもらうよう配慮しているところもあります。それが高齢者の自信や心の健康につながるからです。
 そして2つ目は、「好奇心を持って学ぶ」ことです。
 高齢になっても生き生きと日々を過ごしている方は、ほとんど例外なく好奇心が旺盛です。そして新しいデジタル機器を使いこなしたり、自分の興味のある分野を追いかけて知識や技術に磨きをかけたりしています。新しい情報や学術の探求というのは決して尽きることがありませんし、それを追求することで自分自身が成長した、進歩したという知的な喜びを得ることもできます。
 現役世代とは体力などの違いがあるとしても、高齢者ならではの働き方や、社会活動を充実させていく方法はあるはずです。「年だから」と諦めてしまわずに、老いとうまく付き合いながら、新しい挑戦をしていけるといいのではないでしょうか。

杉浦 敏之(すぎうらとしゆき)
1988年千葉大学医学部卒業。同大学院で医学博士号取得。
2003年より医療法人社団杉浦医院院長、2004年より同医院理事長。25年間にわたり高齢者医療に携わり、地域医療を充実させるために末期がん患者への在宅医療も行う。

 

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