コラム

老後をどう生きるか?②

失われた生きがい。望まない延命治療。増え続ける「死ねない老人」。
人生の集大成ともいえる時期を充実して生きるために、私たちは何をすべきでしょうか。
その解決策を5回にわたって探っていきます。

❷在宅での穏やかな看取りのために

最初の「在宅死」で受けたカルチャーショック

 私は救命救急センターに勤めた後、心臓血管外科や消化器外科の病院に勤務し、その後大学院に戻ってドクターを取得。その後勤めたさいたま赤十字病院では、がん末期の患者さんの看取りを多く経験しました。2003年、私の父が開業していた病院を引き継いだ時、外来と併せて訪問診療をスタート。患者さんのお宅を一人で訪ね、自分で点滴を打って帰るといったことを続けた後、訪問看護や訪問介護などのスタッフと連携して、在宅医療の形を整えました。
 そして在宅で初めて患者さんの看取りをすることになり、私はそこで衝撃というか、カルチャーショックを受けました。在宅での看取りは病院ではつきものの心電図モニターの音がなく、非常に静かで、旅立つご本人も見守るご家族も驚くほど穏やかなのです。その在宅死1例目の患者さんは、ご家族に看護師さんがいて、その方も「モニターの音がなくて静かですね」と看取りの感想を語っていたのを覚えています。
 その後、2例目、3例目と在宅死を経験していくうちに、私は「在宅死って、いいな」と思うようになりました。患者さんの息が止まるとご家族が私を呼ぶのですが、家に着いた時には既に家族が集まって「大往生だったね」と談笑しながら、お茶を飲んだりしていることがあるのです。
 病院死がすべて悪いというわけではありませんが、どちらが自然で安らかな死かといえば断然、在宅ではないでしょうか。

世界のスタンダードは「人は死にゆくもの」

 アメリカや欧州、オーストラリアなどの先進諸国では、人として尊厳のある死やそのための終末期医療について、もうずいぶん前から議論がなされてきています。それにより、どのような時にどのような医療・ケアを行うか(行わないか)という具体的な指針も既につくられています。
 例えばオーストラリアでは、2006年に政府が「高齢者介護施設における緩和医療のガイドライン」を策定しています。そこでは、終末期の医療・ケアについて次のような方針が明確に示されています(以下、『高齢者の終末期医療を考える』より引用)。
 ●無理に食事をさせてはいけない
 ●栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある
 ●脱水のまま死ぬことは悲惨であると思い点滴を行うが、緩和医療の専門家は経管栄養や点滴は有害と考える
 ●最も大切なことは入所者の満足感であり、最良の点滴をすることではない

家族の側にも死を受け入れる準備が必要

 在宅で看取りをするとなった時には、見送るご家族にもやはり心の準備が必要です。
 家族や親しい人たちを看取った経験がない人にとっては、死を迎えることは抵抗があり、本当に自分たちに見送ることができるのかと、不安や恐怖を感じることも多いでしょう。
 しかし人が死に向かう過程では、どのような身体的変化が現れるのか、またそのとき本人がどのように感じているか、などを少しずつ説明していくと、ご家族も安心され、看取りの負担感が軽くなるようです。
 愛媛県の医療法人ゆうの森が制作した『家で看取るということ』には、看取りの時が近づいた患者さんの様子がわかりやすく説明されています。一部を紹介します。

水分や食べ物を欲しがらなくなります

「水や食べ物への興味を失う頃には、体はもうそれを受け付けなくなっていて、命を終えようとする準備を始めます。これはつらいものではなく、脱水状態になると意識がもうろうとなり、麻酔が効いているような、本人にとっては楽な状態になります。口の中の乾燥は、ぬれた綿棒やガーゼなどで湿らせてあげてください」

眠ることが多くなります

「睡眠時間が長くなって、呼びかけにも反応しにくくなり、時には目覚めることすら難しくなります。痛みがあれば眠ることができません。眠ることができているのは安
楽な証拠です。この時期は眉間にしわを寄せることもなく、ぐっすり眠られているのが本人にとって一番楽な状態です」

すべてを受け入れてあげてください

「時間や場所、家族や知人など周囲の認識ができなくなってきます。亡くなった方が目の前に出てきたり、行くことができない場所に行ってきたなどと言うこともあります。この時期になると、よくあるようですから、不安に思わずに本人が話すことを否定せず、すべてを受け入れ尊重してあげてください。感じたことを自由に話せる雰囲気にして、優しくさすったり、安心できるように静かに話しかけてください」
 こうした経過などを学んで準備し、心が決まると、ほとんどのご家族が立派に在宅での看取りをやり遂げられます。在宅看取りをされる方々には、不安があればいつでも在宅医を呼んでほしいとお伝えしていますが、臨終前に私が呼ばれることはあまりなく、ご家族・親族で穏やかな看取りをされるケースが多くなっています。

杉浦 敏之(すぎうらとしゆき)
1988年千葉大学医学部卒業。同大学院で医学博士号取得。
2003年より医療法人社団杉浦医院院長、2004年より同医院理事長。25年間にわたり高齢者医療に携わり、地域医療を充実させるために末期がん患者への在宅医療も行う。

 

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