インタビュー

俳優 升 毅さん

輝く人 インタビュー 6月号 Vol.81

映画は演技なのか、素の自分なのか、よくわからないところがある

たくさんの映画やドラマ、舞台に出演し、どんな役も巧みに演じ分ける抜群の存在感を放つ升毅さん。
40年を超える俳優人生を振り返るとともに、初主演となる映画『八重子のハミング』について伺いました。

思いつきで言ったことが一生の仕事になった

俳優になろうと思ったきっかけは?

 私が俳優という職業を意識するようになったのは、高校生の時です。それはもう不純な動機でしたね。卒業後の進路を考えた時、まず脳裏をよぎったのは「もう勉強したくない」ということ。受験勉強をせずにすむ方法はないかと必死に考え、絞り出した考えが「俳優になること!」でした。あまりに突飛な発想に担任の先生もびっくりして、即、両親を呼び出しての三者面談ですよ。でも、父は私の思いを一切否定しませんでした。その代わり「まずは現役で大学へ行き、4年できちんと卒業しろ」と逆に条件を突きつけられてしまったんですね。父には魂胆を見透かされていたのでしょう。結局、後に引けなくなった私は大学へ進学することになりました。

それでも、その時の思いはずっと続いていたのですね。

 入学して1年間は、「俳優」なんて言葉もすっかり忘れてキャンパスライフを謳歌していました。でも大口叩いた手前、このままではいけないと2年生で一念発起。俳優を目指してすでにいろいろな活動を始めていた友人にも触発され、NHK大阪放送劇団付属研究所に入所しました。そこからは、瞬く間に演じる楽しさにのみ込まれていきました。週4回のッスンで親しい仲間がどんどん増え、全ては演劇活動を中心に生活が回るようになっていきました。だから周りが就職活動を始めた頃には、この道で食べていく決心はついていました。

印象に残っている作品はありますか?

 プロデュース公演でやった舞台『ちいさき神の作りし子ら』ですね。劇団(五期会)に所属して10年、ひと区切りつけたいと思って退団し、新たに劇団ユニット『売名行為』を立ち上げた時、この作品のオファーをいただいたんです。ろう学校の生徒と先生のラブストーリーで、私にとっては大きなチャレンジでした。というのも相手役はろうの女子生徒なので、2人の会話は全編通して手話。つまり、手話から読み取った彼女のセリフを私がすべて代弁し、それに対する自分のセリフを発しながら手話で相手に伝える、という膨大な作業が求められたわけです。これまでに経験のない苦労の連続でしたが、やり切った時の達成感、そして、お客さんの惜しみない拍手にこみ上げてきた感情は、今でも忘れられません。また、私の演技にわりと辛口コメントだった兄が公演後に楽屋に来た時、何も言わずに握手を求めてきて、ひと言「良かった」と言ってくれました。それが妙に心に響いて、泣きそうになったのを覚えています。この作品に出合い、私は俳優としてようやく一皮むけたような気がしています。

原作を体にしみ込ませ撮影にのぞんだ

さて今回、初の主演作となった映画『八重子のハミング』について教えてください。

 升毅さん私にとって、「介護」ほど経験値の低いものはなく、最初はどう演じればいいのか想像もつきませんでした。しかし、原作を何度も何度も読んで、感動して泣いて泣いて……それを繰り返しているうちに、2人の話が体にしみ込んでいったのでしょうか。いざ撮影に入った時は、不思議と流れるように演技することができたんですよ。正直なところ映画でのセリフや行動は、演技なのか、素の自分なのか、よくわからないところがあります。八重子さんが亡くなるシーンは、自分の家族を想像すると本当に胸が痛くて、その日(撮影日)が来ないようにと本気で願っていました。だから亡骸の前では、素の自分が絶叫していたんじゃないかと思います。実は、撮影が行われた地元では、私と八重子さん役の高橋洋子さんが、原作の陽信孝(みなみのぶたか)先生ご夫妻が乗り移ったみたいにそっくりだ、と言われていたんですよ。まさに、魂を込めて作り上げた作品です。ぜひご覧になってください。

いきいきとした升さんの元気の秘訣を教えてください。

 ありきたりですが、運動と食事ではないですか。もともと体を動かすことが好きなので、仲間との草野球で体を動かしたり、電車を使わずたくさん歩くようにしたりと限られた時間をうまく使って運動不足にならないよう注意しています。姿勢よくシャキッとするのも若見えのコツですよね。また、食事面では、食べ過ぎないことが大切なのかな。私は若い頃から料理が好きで、ほとんどが自炊。野菜をたっぷりと使った和食系のものを毎日作って食べています。自分で言うのもなんですが、結構おいしいんですよ。手作りすると、おいしいだけでなく、栄養バランスや食べる量も自在にコントロールできるのでいいですね。

升 毅 (ます・たけし)
1955年12月9日生まれ。東京都出身。
NHK大阪放送劇団を経て、1985年に演劇ユニット『売名行為』を結成。1991年には劇団『MOTHER』を旗揚げし座長として活躍。その後、映画やドラマに活躍の場を広げ、映画『NIN×NIN 忍者ハットリくんTHE MOVIE』や『サマータイムマシン・ブルース』、ドラマ『沙粧妙子―最後の事件―』や『ショムニ』シリーズ(CX)、大河ドラマ『軍師官兵衛』や朝の連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)など、多くの作品に出演。

八重子のハミング

 

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