コラム

モノとこころの整理術 老いへの「ケジメ」②

モタさんの言葉②

この世の未練を少なくすることは、モノに頼るような生活でなく、生きがいを充実させることだと思う。(本文より)

もっとモノを捨てなさい

 私たちの世代は、モノを大切にしなさいとしつけられて、大きくなった。
 服はもちろん、下着や靴下だってツギ当てをして大切に使ったものだし、電気製品は故障すればとことん修理して使った。本もカバーをつけて大切に読んだ。
 とくに戦中・戦後の体験がある人なら、もったいなくてモノが捨てられないという気持ちは共通しているだろう。かくして、押し入れや物置は、使わないモノであふれかえることになる。一方、若い人たちはかんたんにモノを買い込み、かんたんに捨てる。
 どこも壊れていない腕時計も電池が切れれば捨ててしまう。電気製品も自動車も家具もポイと捨てる。日本列島はゴミであふれかえることになる。
 若い人たちは捨てすぎだし、ある年齢以上の人は捨てなさすぎているようだ。(~中略)
 団地で一人住まいをしていた母親が亡くなって、部屋の整理にいったら、押し入れの中に、着古した着物や、父親の本、もらいものの食器などがぎっしりと詰まっていて、片付けるのに苦労をしたといっていた人がいる。
 3DKの部屋を、きれいな空き室にしなければならないのだから、考えようによっては引っ越しよりも大変だ。家具などの粗大ゴミはオカネを払って引き取ってもらい、燃えるゴミ、燃えないゴミと分別して、捨てるのに一か月もかかったという。
 亡くなった母親と親交のあった団地の近所の人が手伝ってくれたそうだ。しかし、この人たちがまた、捨ててはもったいないという生活をしてきた世代なので、「この使っていない食器は持って帰りなさい」「その服はまだ着られるから、誰かにあげなさい」などと口を出す。
 見られたくないものもいろいろとあるから、神経をすり減らしながらの片付けだったといっていた。
 結局、一〇冊近いアルバム、段ボール一杯の手紙の類、日記や古い家計簿、子どもの頃の思い出の品々、さらに母親が趣味で集めていた人形など、片付けにいくたびに持って帰らざるを得ないモノが出て、今度はその処理をどうしようかと悩んでいるというのである。
 いろいろと考えさせられる話だ。なんにしても、人はいろいろなモノを残して旅立たなくてはならない。 モノには思いが詰まっている。
その思いは死んだ当人だけのものであることが多い。
 この思いを生前に整理することが、未練を少なくするコツとなるのだと思う。
 現代人はモノで自分の存在感を感じることがある。たとえば気に入った車を持つことがその人のアイデンティティになっていることがある。
 モノにアイデンティティが付着していたら、とても整理などできないし、また、このモノの行く末が心配で死ぬに死ねないということもある。
 どちらも未練のもとである。モノに対する未練を少なくすることは、アイデンティティをモノで感じるのではないような、別の生きがいを見つけることではないだろうか。
 たとえば、旅を趣味にするとか、絵を描くとか、そういう「行為」によって自分の存在感を感じるような生活を実現する。旅にいったらなるべく土産モノは買わない。思い出だけが財産となるような、そういう旅行を心がける。
 この世の未練を少なくすることは、モノに頼るような生活でなく、生きがいを充実させることだと思う。生きがいは、充実すれば充実するほど、いい人生だったと感じるから、それだけ未練が少なくなる。
 いくらモノがあっても、それを眺めて、いい人生だったと感じることはないが、たくさんの思い出を残せば、いい人生だったと納得することができる。いずれにしろ、残すモノは少ないほうがいい。いつお迎えが来るかは誰もわからないのだから、いつも、おいていく荷物は少なくしていたほうがいいということである。
 どうせあの世には持っていけないわけだから、これからはモノを買わないようにすればいい。
 買わずに、持っているモノを工夫して使う。使わないモノは思い切りよく捨ててしまう。こうすれば、残された人も整理が楽になるし、モノに対する未練も少なくなる。(~中略)
 本もそうだ。ほんとうに好きな本だけを買って、後は図書館を利用する。
 段ボールに一〇箱くらい溜まった文庫本を、古本屋が引き取ってくれないと怒っていた人がいたが、怒るほうに無理がある。
 部屋に本棚はひとつと決めている人がいる。はみ出してしまった本はどうするか。思い切りよく捨ててしまうのだそうだ。
 はみ出た時点でどれを残すか、何を捨てるかを考える。本棚ひとつでも、百数十冊は収納できる。つまり、自分が読みたい本のベスト100は常に揃っているというわけだ。

老いへのケジメ

斎藤 茂太(さいとうしげた)
精神科医・医学博士。「人生は悠々と、急がずあせらず」をモットーに、おだやかな人柄で知られ、「モタさん」の愛称で親しまれている。2006年11月逝去。著書多数。

 

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