インタビュー

女優 藤田弓子さん

輝く人 インタビュー 8月号 Vol.71

「日本の元気なお母さん」的な存在で、はつらつとした笑顔が印象的な女優=藤田弓子さん。最新の舞台「ペコロスの母に会いに行く」では、認知症の母をかわいらしく愛おしく演じています。そんな藤田さんに、女優としてのこれまでの軌跡と元気の秘訣を伺いました。

母親譲りの好奇心で女優という夢を実現

小学生の時にラジオドラマ『赤胴鈴之助』に出演しています。そのころから芸能に興味があったのでしょうか?

 私は、母親に似て好奇心が強い子でした。その好奇心が思わぬ行動力を発揮したんですね。ラジオで募集を知り、すぐさまハガキで応募。一次審査、二次審査と一人でオーディションをクリアしていきました。最終審査を前に、「親と一緒に来てください!」と言われ初めて親に報告したんですけど、好奇心旺盛な母は二つ返事で快諾。そして、あの天下の美少女・吉永小百合ちゃんと共に見事合格を勝ち取ったんです。私は普段はおとなしくて、あまりしゃべらない性格だったんですよ。でも授業で音読や発表をさせると上手いと評判でした。そのスキルが評価されたのだと思います。そこでは、穂積純太郎さん指導のもと、全身全霊心を込めて演じる姿勢を学びました。その後、中学から高校へと普通に進学し、大学受験まで視野に入れて勉強をしていたんですけど、結局、女優という道を選ぶことになったのは、この時の経験があったからかもしれません。

文学座入所が女優への第一歩となったわけですね。

 母に「女優になりたい」と話したら、「絶対にやめないでね」とこの時も快く背中を押してくれました。もちろん私自身、決めたからには一生の仕事にするという覚悟でスタートしました。まずは演技の基礎を身につけるため文学座の狭き門にチャレンジ。無事合格しました。文学座に入ったことで舞台という新しい世界を知ることができましたし、文学座の推薦でNHK朝の連続テレビ小説『あしたこそ』のヒロインも務めることができました。このドラマは初のカラー放送ということで、メイクの色をどうするか、衣装は、照明は……とすべてが試行錯誤。女優というよりもむしろ、スタッフの一員という立場で作り上げた作品です。撮影期間1年7ヵ月、苦労の連続でしたが、とてもいい経験をさせていただきました。

30歳の時の再出発が現在の礎を築いた

その後、文学座を突如退所、さまざまなジャンルに活躍の場を広げていきました。

 文学座はとても温かくて居心地のいい場所でした。だからこそ、自分を成長させるために離れよう、そして文学座の看板を外した自分の可能性を試してみようと思ったんですね。そんな中で『小川宏ショー』の司会の依頼を受けることになりました。
20代後半は自分の引き出しを増やしておこうと考え、思い切って演じることをお休みして、全く違うことにチャレンジしようと思ったんです。そして、30歳になる直前に自ら「女優元年!」と称して再出発したわけです。

常に、ご自身で道を切り開いてきたんですね。

  私は、幼いころに父や祖父を亡くし、ずっと母と2人暮らしをしてきましたから、自然とその力が身についたのかもしれません。おかげで、ドラマ『冬の運動会』では脚本家の向田邦子さんと出会え、映画『泥の河』『遠雷』『さびしんぼう』などで若手の熱い監督さんたちと交流することができました。サザエさん打ち明け話を題材にしたNHKドラマ『マー姉ちゃん』では33歳にしてお母さん役を演じるというセンセーショナルな配役も経験。30代はいろいろなことを学び、いろいろなことを身に着け、女優としての礎(いしずえ)を築けた時期でした。

新しい発見の連続が今日を生きる力になる

それにしても、いつも元気で明るい藤田さん。その活力の源は?

 常に新しいことをやって新鮮な毎日をおくることだと思います。この年になると、いつどうなるかわからないと何ごとも躊躇(ちゅうちょ)してしまいがちですが、それは違うと思うんです。そもそも、やることをやり切って終われる人生なんてない。だからこそ、どんどん新しいことにチャレンジすべきですよ。私は女優業の傍(かたわ)ら、自宅のある伊豆の国市で市民劇団「いず夢」を主宰しているのですが、ついこの間の公演では、創立17年目にして初めて古典劇『夏の夜の夢』(シェークスピア)の演出を手掛けました。
たいへんでしたが、日々新しいことの連続でワクワクし通しでした。また女優として稽古をしていても舞台に立っていても、常に新しい発見があってすごく楽しい。楽しいから笑顔になれますよね。日常生活も同じだと思います。繰り返しのようでいて、一日として同じ日はありません。なのに、作り置きして毎日同じものを食べたり、毎日同じ洋服を着たりしていると、一日一日違う日に生きていることを忘れてしまうんですね。だから、少しでいいので食事や衣服に変化を持たせて、新しいと感じられる
一日を作っていくことが大切。それが、生きる力になると思います。

最後に、7月末に始まる舞台『ペコロスの母に会いに行く』について教えてください。

 認知症介護という重いテーマを明るくユーモラスに表現した作品で、笑ったり、涙したり、ほっこりしたりするようなエピソードがたくさんちりばめられています。
認知症は家族にとって深刻な問題です。施設に入れる=見捨てる、というイメージがあるせいか、その一歩を踏み出せずに、介護にかかりきりとなって共倒れしてしまうケースも少なくありません。でも、施設に入るのは悪いことではないと思うんですね。
本人はプロによる手際の良い介護が受けられるようになり、介護者は心の余裕が持てるようになります。介護施設での新しい出会いもあるかもしれません。少し距離を置くことで、お互いによりよい関係が保てるなら、それも1つの方法ではないでしょうか。ミツエと息子ペコロスのやり取りから、そんな介護の在り方も感じていただければと思います。

★「過去の話をするより、今のこと、これからのことを話すのが好き」と語る藤田弓子さん。ポジティブで新しいことに貪欲なその姿勢は、ぜひ私たちも見習いたいものです。

藤田 弓子さん(ふじた・ゆみこ) 
1945年東京生まれ。文学座に入所後、NHK朝の連続テレビ小説『あしたこそ』(’68年)でヒロインに抜擢。’71年文学座退所後もテレビや映画、舞台、CMなどで多数の作品に出演。映画『さびしんぼう』(’85年)では、キネマ旬報最優秀助演賞・日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。そのほか情報番組や旅番組にもレギュラー出演。夫で放送作家の河野洋氏と共に市民劇団「いず夢」を主宰したり、講演を行ったりと幅広い分野で活躍中。

ペコロ スの母に会いに行く

 

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