特集

こころも体も豊かに「共食」のすすめ

一人暮らし人口が増大する日本。それに伴い一人で食事をする「孤食」の割合も増え続けています。
「孤食」が引き起こす健康被害については、さまざまな研究結果が報告されています。かつては日常の姿であった日本の「団らん」。誰かと一緒に食事を共にする「共食」の重要性を改めて見直します。

「孤食」=食生活の乱れ?

日本能率協会総合研究所が、60歳から79歳までの男女500人に対し、「食生活」に関するアンケート調査を実施したところ、一人暮らしの約9割が一人で食事をする「孤食」であることがわかったそうです。また栄養バランスに関する設問では、子ども家族と同居している人の場合、8割以上が「栄養バランスがとれている」と感じているのに対し、一人暮らしの場合は約半数の人が「栄養バランスがとれていない」と自覚していることがわかりました。その理由について8割の人が、「一人暮らしだから」と答えています。
一人暮らしという環境が孤食を招き、孤食によって食への関心が薄れ、「楽しくない食事」や「料理への意欲低下」、さらには「栄養バランスの欠如」という悪循環を生み出していることが推察されます。
厚生労働省の推計では、2035年には全世帯の3分の1が一人暮らし世帯になるといいます。これからの問題として、食事環境について改めて考えてみましょう。

孤食は「うつ」を引き起こす!?

孤食は「うつ」を引き起こす昨年発表されたある研究結果(※)では、男性は一人暮らしで孤食の場合、孤食でない人に比べて2・7倍うつになる可能性が高く、一方の女性は同居または一人暮らしにかかわらず孤食の場合、1・4倍うつになりやすいことがわかりました。つまり孤食は、栄養面に影響をおよぼすだけではなく、心にも悪影響をおよぼすことが明らかとなったのです。
同研究グループの研究員で、栄養疫学や公衆衛生学を専門とする谷友香子先生(東京大学大学院)は、「孤食は、栄養面はもちろん精神面においても不健康な食行動」と警鐘を鳴らします。また、「食事は、単に生きるために栄養を取るというだけではなく、社会的な活動の場であり、精神的な健康を保つ上でも重要な役割を担っています。人は誰かと一緒に食事を取ることでコミュニティに属していると感じ、サポートを受けていると実感することで、食事を楽しむことにつながるのです」と言います。
一方、誰かと一緒に食事を共にする「共食」について谷先生は、「食事を取らない欠食の防止はもちろん、栄養面でも良い影響をもたらし、肥満のリスク低減やうつなどの精神的な健康にも効果が期待できる」とし、共食推進の必要性を訴えます。
ますます進む超高齢社会において、世帯状況の変化に介入することは難しいとしながらも、家族や友人、地域の人たちを巻き込んで共食を推奨することや、自治体で会食やコミュニティレストランを開催することで、共食が広がっていくことに期待を寄せます。「共食を進めることで、孤食による健康リスクを少しでも減らせるかもしれません。周囲が環境を整えてあげることはもちろんですが、当人が身体的・精神的健康を保つためにも、食事環境の改善に努めることが大切です」と谷先生は言います。

※「孤食とうつの関係」2010~2013年、全国30市町村の男女約14万人を対象に大規模な社会調査研究を行う研究グループ「Jジ ェイジスAGES」(日本老年学的評価研究)は、うつ症状がなく要介護認定を受けていない65歳以上の男女約3万7千人を対象に「孤食とうつの関係」について調査した。

孤食は「うつ」を引き起こす

共食が生む新しい団らんの形

共食が生む新しい団らんの形
人が集まる場所に食事があれば話題が広がり、そこにまた人が集まる。
住民参加型の食事サービスを提供するボランティア団体「支え合う会みのり」の代表・藤森良子さんにお話を伺いました。

食事を通じて社会とのつながりを実感

東京都稲城市にある「支え合う会みのり」は、地域の在宅福祉サービスの一環として、病後や産後、高齢などを理由に食事づくりに困っている人への「配食サービス」や、昼食交流会の「会食会サービス」を1983年より提供しています。同団体の特徴は、ボランティアとして協力する人たちも、サービスを利用する人たちも、皆が2000円の年会費を支払い、一緒に食事を中心とした居場所づくりのために支え合っている点です。
市内の公共施設9ヵ所で月に11回開催している「会食会サービス」は、会場に足を運べる70歳以上の市内(もしくは各会場近隣)在住者であれば誰もが参加でき、1回300円の参加費でボランティアが作った食事を楽しめます。食後は、麻雀やトランプ、ウノなどのレクリエーションを楽しむ時間も提供し、地域で活動する大正琴やフラダンスなど、グループ発表の場や地域交流の場としても利用してもらっているのだとか。「ボランティアスタッフも60歳以上がほとんどです。食事を通じて参加者それぞれが自分の居場所を見つけられるように活動しています。人が集まる場所に食事があるだけで話題が広がり、そこにまた人が集まるので、食事の力はすごいと感じます」と藤森さんは言います。

会食会サービスのひとつとして、趣味やボランティアを通して参加者同士が交流を持てる「たまりば」という居場所も提供していますが、ビーズや俳句、手芸など、各目的で集まった人たちの交流会にとどまらず、そこには必ず「皆で食事をする団らんの場」が用意されるのだそうです。
「私たちは食事中心の支援活動を行う団体として、食事の重要性を広く発信し続けています。参加者の多くは一人暮らしの方や、一日中自宅にいるだけでは良くないと感じて参加を希望される方たちです。皆さん毎月の会食会を楽しみにしており、食事を通じて社会とのつながりを実感される方がほとんどだと感じます」と藤森さん。
こうした同様の取り組みは各地域でも広がっています。まずは自分に合ったものを探して、参加してみるのも良いかもしれません。

食事を通じて 社会とのつながりを実感

人気の料理教室で共食を

人気の料理教室で共食を

女性の多くはコミュニティへの参加に積極的ですが、男性は躊躇(ちゅうちょ)する人が多いようです。そんな男性には料理を覚えながら共食できる料理教室がお勧め。
男性参加者が増えている2つの料理教室を取材しました。

料理教室がコミュニティの場に

全国に130ヵ所の料理教室を展開する「ABCクッキングスタジオ」は、2014年から男性会員の受け入れを開始しました。現在では1万人以上の男性会員が通っています。レッスンは少人数制、男女一緒なので、和気あいあいとした雰囲気の中で料理を作ることができ、調理後は皆で一緒に食べるので、食卓を囲んだ世代間交流にもつながるといいます。会員からは「一人暮らしでも健康的な食事を自発的に取れるようになった」「料理するようになり奥さんの助けにもなっている」といった喜びの声も聞かれるそうです。
東京都世田谷区には、65歳以上の男性のみ約300人が参加する料理サークル「おとこの台所」があります。社会福祉協議会からの支援を受け、2002年から活動を開始した同サークルは、リタイア後の男性が料理を通じて楽しく活発に過ごせる場を提供しようと、年に約250回にわたって活動しています。参加メンバーは500円の会費で、約460種類のオリジナルレシピを基に料理を作り、皆で食事を楽しみます。
代表の名取順一さんは「一般的な料理教室のような先生がいるわけではなく、参加者同士がフラットな関係を築いています。「いばらない」「命令しない」「過去を語らない」というのがルールです。参加者からは上下関係もなく気軽に楽しめると好評で、メンバーはこの10年間で約10倍になりました」と話します。参加して6年になるメンバーの中島さん(73歳)は、「退職後は近くに友人もいなかったので、友だちを作りたいと思って参加しました。お酒を飲みに行けるような友人もできました」と言います。
インターネットで調べて入会した小野さん(70歳)は、「同年代の男性が集まって一緒に食事をする機会はなかなかありません。今後の生き方のヒントにもなります。退職後は妻から「友だちがいないの?」なんて言われましたが、今は行動的になり過ぎて逆に怒られています」と話します。
「以前に比べれば、リタイア後に地域のコミュニティへ参加する男性は増えたと感じます。それでも今後の団塊の世代はどうなるかわかりません。
こうした人と人との関係を持てる場所は、今の社会に必要だと思います」と名取さんは言います。

料理教室がコミュニティの場に

 

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