インタビュー

元宝塚トップスター 麻美れいさん

輝く人 インタビュー 5月号 Vol.68

「稽古期間はどれだけ苦しめるかが勝負。でも、私にとって大好きな時間です。」

元宝塚雪組トップスターで、現在は主に舞台の世界で抜群の存在感を放つ女優 = 麻美れいさん。
芸能生活45年、これまでの道のりと舞台にかける情熱、そして新たな船出にふさわしい最新主演舞台「8月の家族たち」について伺いました。

姉たちのひと言がきっかけでタカラヅカの世界へ

宝塚に入ったきっかけを教えてください。

 私にはかなり年の離れた姉が2人います。高校卒業にあたり、その姉たちに宝塚音楽学校への進学を勧められました。でも子供のころから女の子と群れて遊ぶのが苦手でしたし、人前に立つことも大嫌いでした。神田明神鳥居中で地域の人々に見守られながら育ったので、この地で結婚しこの地で子どもを育て、愛着を抱きながら生活するそんな将来像を描いていました。その私が宝塚に入る姿などまったく想像できませんでした。それでもこの道を選んだのは、私に「バレエ」という財産があったからでしょうか。人前に立つのは嫌いでも、バレエとなると例外でした。舞台上から見える景色やライトの熱、お化粧の匂いなどすべてがとても魅力的だったんです。姉に背中を押された時、潜在的にその意識が働いたのかもしれません。

宝塚でのご活躍は素晴らしいものでした。

 憧れもないまま入ったので、宝塚音楽学校時代の私はまさに問題児。初めて親元を離れた開放感で、「学び」よりも「遊び」を優先し、厳しい規律をかい潜ってやりたい放題の2年間でした。にもかかわらず、宝塚歌劇団に入団すると生活は一変。順調過ぎるほどさまざまな役が回ってきて、先輩方に交じってたくさんの舞台を踏ませていただきました。そこからだんだんと責任感と自覚が芽生えてきて、いつしか「素敵な男役になろう」と強く思うようになったのです。そして、その夢が実現した時には、すでに退団を考えていました。ファンの皆さまには私が一番美しかった時を覚えておいて欲しい、花に例えると七分咲きくらいの印象を残して去るべきだと思ったからです。幸せなことに、在籍中に『ベルサイユのばら』(アンドレ役)や『風と共に去りぬ』(レット・バトラー役)』、『うたかたの恋』(ルドルフ役)など、大きな作品に関わることができたので悔いはありませんでした。

時の流れに身を任せ積み上げたキャリアは45年

退団後は、すぐに舞台の世界に戻られましたね。

これも私の人生設計にはまったくない選択でした。退団後のことは何も考えていませんでしたが、少なくとも芸能界に入る気持ちはありませんでした。ところが、宝塚と同じ東宝のプロデューサーに『シカゴ』という大きなミュージカルのお話をいただいたのです。返事に戸惑っていると、「この役を不満に思うなら、この先仕事はできないだろうな」とチクリ(笑)。その嫌味なひと言に触発されて、結局はオファーを受けることに。その後、多くの作品に恵まれ、舞台の世界が私の一生の仕事になりました。

芸能生活45周年を迎えた感想はいかがですか?

 考えてみると、私の人生は常に誰かに手を引かれ、開かれてきました。今の私があるのは、姉たちや東宝のプロデューサーなど周りの方々の導きがあってのこと。本当に感謝しています。舞台は日々変化しているもの。毎日が初日のような新鮮さや普段味わえない緊張感、その日その日のお客さまの反応や表情を拝見することがとても楽しくてここまで走ってきました。もちろん辛く苦しいこともたくさんあります。特に稽古期間はどれだけ苦しめるかが勝負。いただいた役をしっかりと作り込むための試練の日々ですが、私にとっては大好きな時間でもあります。それがあるからこそ、舞台に立ってその空気感を楽しめるんです。

5月には新しい舞台『8月の家族たち』が控えていますね。

 今回の私の役は、ガンに冒され薬物中毒へと陥っている毒舌の女性なのですが、一方で彼女の繊細さや弱さなどもふと感じてもらえるような役作りを目指しています。原作が素晴らしいのはもちろん、演者、スタッフ含め集まったメンバーも素晴らしい。これから稽古場で存分に苦しんで、皆さまに楽しんでもらえるような魅力的な作品に仕上げたいと頑張っています。

ポジティブ思考がストレスをためないコツ

張り詰めた生活の中で、どのように気分転換をしていらっしゃるのでしょうか?

 1番は歩くことですね。歩くことがストレス発散。疲れていればいるほど歩こうと思います。景色を眺めながら歩いていると心がオープンになって余計なことを考え込まなくてすみますから。あとは、仕事場を一歩出たら素の私に戻ること。家に帰れば主婦ですから料理を作ったり掃除をしたりと普通に家事をこなしています。これを「面倒だ」「大変だ」と思ってしまうと苦痛になりますが、楽しいと思ってやるといい気分転換になります。また私の場合、家庭という世界を知っておくことで役の幅も広がるので、なくてはならない貴重な時間になっているんです。何事もポジティブに考えることですね。

では、最後にシニアの方に向けてメッセージをお願いします。

最近のシニアの方は上手に趣味を楽しんでとてもエネルギッシュ。むしろ私の方が見習いたいくらいです。先日、ある雑誌で外国の高齢のマダムが自分の好みで着飾って人生を楽しむ姿を拝見し、「ああ、この感覚忘れちゃいけないな」と思いました。流行とか他人の目とか一切関係なく、自分が好きなものを好きなように身にまとう。お金をかけるということではなくて、例えば昔の思い出の服をちょっとリメイクして着るというのも楽しいじゃないですか。私は宝塚の時代から衣装をリメイクしたりしてきましたが、その経験を今でも日常に生かしています。皆さまも、そうした「オシャレ心」を忘れないでください。

麻実 れいさん(あさみ・れい)
3 月11日生まれ。東京都出身。’68 年宝塚音楽学校入学。’70 年宝塚歌劇団に入団。星組で『ハロー・タカラヅカ』で初舞台を踏む。’80年から雪組男役トップスターとして活躍し、’85年に宝塚歌劇団を退団。その後、女優に転身し『シカゴ』『サド侯爵夫人』『蜘蛛女のキス』『オイディプス王』などミュージカルをはじめ古典劇、翻訳劇など多くの話題作に出演。’96年には『ハムレット』『エンジェルス・イン・アメリカ』の2作で第3回読売演劇大賞・最優秀女優賞、また’06年には紫綬褒章を受賞するなど、受賞歴多数。

interview_68-18月の家族たち August:Osage County
2016年5月7日(土)~29日(日) Bunkamuraシアターコクーン
2016年6月2日(木)~5日(日) 森ノ宮ピロティホール
三姉妹とその家族がおりなすブラック・コメディー
シカゴで生まれ、瞬く間にブロードウェイに進出、映画化も実現したアメリカ演劇の傑作。ピューリッツァー賞やトニー賞を受賞したブラック・コメディーをケラリーノ・サンドロヴィッチの演出で日本初上演。舞台は8月酷暑のオクラホマ。アルコール中毒の父の突然の失踪をきっかけに、薬物の過剰摂取で半錯乱状態となった母のもとに三姉妹が集まってくる。久しぶりに家族全員が揃い楽しいディナーとなるはずが……。
作:トレイシー・レッツ  翻訳:目黒条  上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:麻実れい 秋山菜津子 常盤貴子 音月桂 橋本さとし 犬山イヌコ  羽鳥名美子 中村靖日 藤田秀世 小野花梨 村井國夫 木場勝己 生瀬勝久

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