コラム

命涯(かぎ)りあり知は涯りなし⑩

命涯りあり知は涯りなし

人にはそれぞれの生き方があり、人生にはドラマがある。私もいつの間にか86歳になった。
ふと、あと何年生きられるかと思うことがある。必死に生きてきた私の半生を書いてみたい。

⑩親の真剣な生きざまが子どもに反映する

 敗戦後、台湾引き揚げから間もなく両親を亡くした私は、昼間は薬局で働きながら高校の夜学を卒業した。そして昭和
32年4月、一般社団法人倫理研究所へ入所後、同じ職場で勤務していた妻と結婚。男ばかり6人の子を育てた。

ボロボロの1年生

 わが家では保育園の布製のカバンを四男、五男、六男の3人で使った。カバンの裏側には「きむらじゅんいち」「きむらよしのぶ」「きむらとしひろ」と大きな字で3人の名前が縦書きに並んでいる。
 五男が小学校に入るとき、四男が6年間使ったランドセルを背負って行った。当時、テレビでランドセルのコマーシャルに「ピカピカの1年生」が流行(はや)っていた。誰が見ても中古品とすぐにわかる。案の定、彼は「ボロボロの1年生」と言われて帰って来た。
 後日、担任がクラスの生徒に「お兄ちゃんのお古を使うことは、決して恥ずかしくない。笑ったらいけない」と言ってくれたそうだ。
 いまも手元に、彼が幾度も自分で修理しながら6年間使ったランドセルがある。肩掛けはよれよれで背当てにはガムテープが何枚も貼り付けてある。サイズは縦25センチ、横21センチ、入り口が8センチと小ぶりで、底にはトタン板が張ってある。いまどきの何万円もする高価なものとは比べものにならない。名札もお守り袋もそのままついている。昭和
53年、血液型はO型。高学年になると片腕しか入らないランドセルを、いやがらずに6年間よく大事に使ってくれたものだ。
 彼が中学2年生のとき、母親が2階の倉庫から12年間使ったランドセルを見つけて、玄関先に置いた。「よっちゃん。このランドセルもういらないでしょう。ありがとうしてゴミ袋に入れて出そうね」と言うと、彼は「お母さん、捨てないで、捨てないで」と言った。「どうして?」と聞くと、「ぼくの思い出がある」とひと言。
 あれから40年が過ぎた。ランドセルにどんな思い出があるのか、私たちは1度も聞いたことがない。後日、小学2年生の孫が来た際、親が使っていたランドセルを見せて物を大切にすることを教えた。

中古品だからこそ

 静岡県の教育雑誌「駿東文園」昭和50年6月号「中学生になった日のこと」という特集に、「入学式の朝」と題して、次男の作文が掲載された。その一部を紹介する。「竹志!起きなさい」と父に起こされ、眠い目をこすりながら、階
段を降りていった。顔を洗い目を覚ますと、下の部屋に学生服が待っていた。
 きのう、家族の人が今日の日のために、いろいろとやってくれた。兄はワイシャツを貸してくれ、父はズボンをズボンプレッサーにかけてくれ、母はボタンの付けかえを、夜遅くまでやってくれた。この服には家族の愛情がこもっているのだ。ぼくはこの家族の愛情と協力がとてもうれしく、ありがたく思った。
 新しい学生服、新しいズボン、新しいカバンといいたいが、僕の学生服、ズボン、カバンは買ったばかりの新品ではなくセコハン物(中古品)である。新しい物と言ったら帽子ぐらいなものである。だが僕は、いくらセコハン物でも、家族の愛情のこもった学生服を、いつまでも大事に着ようと思っている。
 しかし、セコハン物を着ているからといって、心までセコハン物では困る。中古品を着ているからこそ、よけい心を新品にしなくてはならない(後略)
 Yシャツは長兄が自分のを貸してくれ、学生服は大学を卒業した人からいただいた。サイズが大きすぎて奴凧(やっこだこ)のようだった。大学と中学のボタンの付けかえ作業が必要だった。カバンは母親が高校生の時に使った赤いカバンを、自分で黒に塗りかえて、男物に変身させて使った。
 どの子も新しいもの、いいものでなければイヤだとは言わず、ありがたいことに、あるもの、いただきものを工夫して大切に使ってくれた。
 子どもは親を泣かせ、困らせるために生まれてくるのではない。どの子もみな素晴らしい面がある。その気になり、よく注意して見ると親は教えられることがたくさんだ。こう考えると家庭教育は目先のテクニックではない。親の真剣な生きざまそのものが、良いも悪いも子どもに反映する。この現象を「親子相関の原理」という。
 子どものしつけや教育は、結局は親と子の根比べ。先に感情的になったり、お手上げして逃げ腰になったりした方が負けるのだ。夫婦の愛情が必ず子どもの成長のエネルギーとなる。
 家庭を学校に、親を教師に置き換えても同じ。だから疲れても、裏切られても嫌われても、子どもの幸せを願い続けながら、生ある限り、愛情を吐露(とろ)して、親子(教師と生徒)の絆と信頼をさらに深めていこう。
 親が大変なときは子どもにも苦労をさせると良い。それが本当の家族だと思う。みんなで協力すれば必ず道は開ける。子どもの夢は親の愛によって、大きく成長する。親の愛は子どもの夢を実現させることによって、いよいよ本物となって輝いてくる。
 私は「ボロボロの1年生」と言われた古いランドセルを九州まで持参して、講演先の先生方にとくと見ていただいた。何も恥ずかしいことではない。

木村重男さん木村重男(きむらしげお)
1933(昭和8)年生まれ85歳
一般社団法人倫理研究所 参与。
文部科学大臣から社会教育功労賞を受賞。著書に『夫婦の玉手箱』『豊かな人生を拓く玉手箱』など多数

 

関連記事

  1. 若若&噛む噛む健康レシピ|蕗の葉の佃煮風 蕗の煮つけ まるごと卵…
  2. 老後をどう生きるか? 【新連載】老後をどう生きるか?
  3. 芝田千絵のアートライフ 芝田千絵のアートライフ vol.14
  4. モノとこころの整理術 老いへの「ケジメ」③
  5. デリッシュキッチン 今月のかんたんデリッシュキッチン|サクサク食感♪ブリの 甘辛炒め…
  6. 精神科医が教える老後の人生スッキリ整理術③
  7. PHOTOスケッチ48
  8. 野球をオリンピックに呼び込んだ男 オリンピックに野球を呼び込んだ男~アイク生原の生涯③
ゴールデンライフ送付希望の方
読者プレゼント応募方法
脳トレ・脳レク応募申込
都内の名処
脳トレダンス動画
ゴールデンライフ広告掲載

ピックアップ記事

  1. 楽しく百歳、元気のコツ
  2. 命涯りあり知は涯りなし
PAGE TOP