コラム

精神科医が教える「がんばらない老後」のすすめ ②

がんばらない老後

日本人の平均寿命はぐんと伸びました。「定年」や「子の独立」は人生第二のスタート地点。のんびり手を抜いて、自分自身のために気楽に生きはじめましょう!少し適当でストレスのない「第二の人生」の楽しみ方を精神科医が伝授します。

なぜ趣味が多いほうがいいのか

 若くて体力に満ちあふれているころは、いろいろな趣味に手を出すと、「何か1つに絞らないと、どれも中途半端に終わるよ」などと注意を受けたものです。
 確かに、「これもやりたい、あれもやりたい」というタイプの人は、極めた趣味や特技がなく、「私は○○なら誰にも負けない」と胸を張れるものを得ることができません。しかし、シニアに限っては「がんばって何かを極める」より、「あっちも好き、こっちも楽しい」と思える趣味を、たくさん持ったほうがいいのです。
 たとえば海外旅行が趣味の人がいたとしましょう。現役時代と違い、シニアには時間がたっぷりありますから、お決まりの観光コースだけではなく、じっくりとあちこちを見て回れますね。まさにシニアにぴったりの趣味と言えるでしょう。
 しかし、年を重ねれば長旅はこたえますし、風土や気圧、時差などに対する適応力は低下しがちです。
 また、マラソンやテニス、サッカーなど体を激しく動かすのが趣味の人も、若いころと同じ体力を維持するのは困難です。
 もし、旅行なりスポーツなり、1つの趣味、1つの楽しみ方しか知らなかったら、それができなくなったときの喪失感は大きいでしょう。しかし、多くの楽しみを知っている人は「こっちがダメなら今度はそっち、そっちもダメなら今度はあっち」という具合に、がんばらずに上手に乗り換えることができます。それが「多くの趣味を持ったほうがいい」という理由です。
 さらに、趣味の種類は、「一人でできるもの」と「多数でやるもの」を持っていると楽しいでしょう。元気なときは多くの人と交わる趣味を楽しみ、それができなくなっても一人でできる趣味を持っている人は、生きていくことに柔軟で強いと言えます。
 シニアの趣味のキーワードは「極める」より「楽しむ」くらいがちょうどいいのです。

ちょっとしたぜいたくが心を豊かにする

 都内のマンションで暮らす智代さんは、毎日お茶の時間になると食器棚の前に立って、「今日はどれを使おうかしら……」と、自分のお茶を淹い れるための湯のみ茶碗を選ぶのが日課だそうです。
 食器棚には有田、益子(ましこ) 、清水(きよみず)、九谷焼(くたにやき)など、高級なブランド和食器類が並べられていますが、これは智代さんが買い求めたわけではなく、3年前に亡くなった彼女の夫が揃えたものです。
 智代さんのご主人は和食器通で、食器を買うときはわざわざ窯元(かまもと)まで出向くほどの凝(こ)り性でした。そして買った食器はきれいに飾りつけ、それを眺(なが)めては悦(えつ)に入っていたそうです。
 ご主人が生前、わが子のように大切にしていたものなので、智代さんもまた、それらの食器を柔らかな布で拭ふ いたりして、ていねいに飾っておきました。しかし、あるとき地震があり、ひとつの湯のみ茶碗が食器棚のなかで転がって端が欠けてしまったのです。
 欠けた茶碗を飾っておくわけにもいかず、かといって捨てるのも忍びないので、自分がお茶を飲むときに使うようにしました。すると、どうでしょう。智代さんは今までに味わったことのない優雅な気持ちになったそうです。
 それまでは和食器の魅力がなかなか理解できず「道楽なんてそんなものだ」と思っていたのですが、改めて和食器のよさを体感したのです。そこで、ほかの食器も使ってみることにしました。
 元気なころのご主人は智代さん相手に、「この茶碗を見てみろ。これは青備前(あおびぜん)といってな、めったに出ない貴重な焼色なんだぞ」「有田焼の命は、雪のように真っ白な素地なんだ。だからこそ鮮やかな絵付けが映えるんだぞ」 などのように講釈を垂(た)れるのが一番の楽しみでしたが、智代さんにはそんな知識はありません。
 でも、食器を使ってお茶や食事をおいしくいただくことはできます。
 ご主人が他界して一人暮らしになってからというもの、智代さんは明日への不安から、がんばって倹約倹約の毎日をおくり、以前よりずっと気持ちが小さくなっていました。しかし、高級な茶器を自分のために使うことで、ふっと明るさを取り戻せたのです。そして今では、茶碗に見合うようにと、茶葉を高級な玉露(ぎょくろ)に替えたそうです。
 シニアとして慎(つつ)ましい生活をおくることも大切でしょう。しかし、自分のためにぜいたくをすることも、ときには大切。日々の楽しみは生きる糧(かて)になるのですから。

保坂 隆(ほさかたかし)
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。聖路加国際病院・診療教育アドバイザー。1952年、山梨県生まれ。
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授、聖路加
看護大学臨床教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、リエゾンセンター長などを経て、保坂サイコオンコロジー・クリニックを開業。

書籍紹介
精神科医が教える「がんばらない老後」のすすめ
著者:保坂隆 発行:廣済堂出版 価格:1,100円+税
仕事や子育てを一生懸命がんばってきた方々へ。老後はあまりがんばらず、少し気ままにのんびり手を抜いて、楽しく生きよう!
ストレスのない「第二の人生」のすごし方。人間関係、お金、物、家事などをちょっぴり適当に。無理せず快適に暮らすおすすめ生活スタイルや、適度な力の抜き方を紹介。

 

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