コラム

命涯(かぎ)りあり知は涯りなし⑦

命涯りあり知は涯りなし

人にはそれぞれの生き方があり、人生にはドラマがある。私もいつの間にか86歳になった。
ふと、あと何年生きられるかと思うことがある。必死に生きてきた私の半生を書いてみたい。

⑦朝礼の資料『職場の教養』を手掛ける

 敗戦後、台湾から引き揚げてきた私たち一家は、間もなく父がアルコールで廃人のようになり他界。家族を養うために中学卒業後すぐに漁船の飯炊きになった私は、船の事故に巻き込まれて大手術を受けた。無事に退院したものの母が結核で他界。一念発起した私は、昼間は薬局で働きながら夜学を卒業した。

倫理研究所へ入所

 昭和32年4月、私を含めて九州出身の4名が倫理研究所の塾生として入所した。東京・神田にあった本部の2階屋上に6畳一間の部屋が急造され、特別科2名、普通科2名の大人4人が寝起きをしながら半年間の教育を受け、それぞれの部署に配属された。私も先輩K先生のかばん持ちからスタートして都内の『朝の集い』(おはよう倫理塾)などに出席して、将来の研究員になるためのイロハから学んだ。当時、企業関係の普及に力を入れることになり、私は広報部に配属され部長のもと朝礼の資料として『十分間の教養集』(のちの『職場の教養』)を手掛けた。
 幸い東京商工会議所の後援を得て、経営者セミナー、新入社員講座が始まった。私は一人で会場の設備や重い録音機を肩に担いでJR(当時の国鉄)の駅の階段を駆かけ上がったりチラシや会報を作ったりで多忙をきわめた。
 月7千円の給料から毎月、家族へ2千円送金していたので、外食生活は厳しくたびたび飯抜きをしていたが、青雲の志が強く、見るもの聞くものにアンテナを張り、貪欲(どんよく)に吸収していた。
 研究員の3条件として、①講話ができること ②原稿が書けること ③個人指導ができること――と言われていたので、話し方の勉強もした。会場では自己紹介や講師の前座をするようになって、私はよく失敗して恥をかいた。
 青年担当になってから毎月、早朝に神田の共立講堂に2千名集めた青年早朝講座の講師を半年担当するようにU専務から命令され、それをクリアして自信がついた。
 昭和55年、法人・一般組織を担当した後、静岡県御殿場にある教育の殿堂『富士倫理学苑』に教務部長として赴任し、将来、研究員になるための学生教育、長期実習生教育、各種企業セミナーなど、少人数で担当することになった。

書く、話すは「表裏一体」

 小学校2年生からドモりだった私は、勉強が嫌いで小学生のときは授業時間に先生から指名されると「書けません」「知りません」の連発で、よく教室の後ろに立たされ、年中恥をかいていた。「読めない、書けない」で漫画の本さえ読んだことがなかった私が入所後、編集の仕事をさせられ痩やせる思いをしてきた。
 月刊誌などの年間執筆予定表があり、会員の体験記や取材、論文の執筆などで「書けません!」が通用しなくなった。
 特に法人関係の朝礼の資料である『職場の教養』は65年以上同じ内容が2つとないのが特長で、現在発行部数は毎月200万部(平成31年1月)のベストセラーで、全国で職場朝礼のテキストとして好評を博している。縦35字、横13行の約450字の1日1頁の読み
切りだが、「起承転結(きしょうてんけつ)」の基本を守り「今日の心がけ」につなげなければならない、という執筆上の決まりがある。
 研究員には以前から、年間6本のノルマが課せられていた。毎月の業務委員会では未提出者の氏名と本数が報告されていた。未提出者に原稿執筆の催促(さいそく)をすると、なかには「書け書けと言われても、頭やお尻を掻(か)くように簡単にはいきませんよ」と屁理屈(へりくつ)を言う者もいた。
 毎月定期的に発行するには、内容はともかく本数が揃わないと出版できないので、私は編集部長、出版局長のときには自分に年間執筆のノルマを課して、今年40本なら来年は60本、次は80本、100本、120本と書き続けた。飛行機や電車での移動中にも新聞や資料を片手に、常にアンテナを張っての執筆だが、3日に1本の原稿を1年間書くのは容易ではなかった。
 おかげさまで書くことのプレッシャーやアレルギーがなくなり、いささか自信が持てるようになった。今では手紙やはがき1枚書くのにも、ペン習字の勉強だと思って丁寧に書く習慣がついて、ありがたいと感謝している。
 そして書くことと話すことはまさに「表裏一体(ひょうりいったい)」であることを学んだ。

木村重男さん木村重男(きむらしげお)
1933(昭和8)年生まれ85歳
一般社団法人倫理研究所 参与。
文部科学大臣から社会教育功労賞を受賞。著書に『夫婦の玉手箱』『豊かな人生を拓く玉手箱』など多数

 

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