コラム

生きていくあなたへ105歳どうしても遺したかった言葉②

どうしても遺したかった言葉
いま、最後の力を振り絞って私がしたいのは、あなたとの対話です。
私が言葉によって支えられてきたように、迷い傷ついたあなたへ、私の最期の言葉を伝えたいのです。

日野原重明

昔から運が悪い私。心掛けしだいで運をよくすることはできるのでしょうか?

 重い病気を患ったり、家族を早くに亡くしたり、就職ができない、失業してしまった、離婚したなどなど……、どうして自分だけ、と思ってしまう、まさに運が悪いと言いたくなることが人生には起こりますよね。
 でも、人生には人それぞれ、困難が起こります。どんなに運がいいと思われる人も、人に言えない苦労や悩みを抱えているものです。
 問題のない人など、この世に一人もいないでしょう。
 運をチャンスという言葉に置き換えられるとしたら、いつも僕はこんな風に思っています。まるでそれは富士山のようなものだなと。
 新幹線に乗ると、静岡あたりで立派な富士山の姿が見えてきます。しかし、新幹線に乗れば必ず富士山が見られるかといえば、そうとは限りません。雲に隠れて見えない日もあるでしょう。晴れていたって、乗ったのが夜だとしたら、まったく見ることができません。日本一の大きな山でさえ見えないのです。
 でも見えなくても、富士山は確実にそこに存在しているのです。 
 そこにそびえているのに見えない。あれほど大きな山なのに見えない。その次も、その次も見えないということがあります。それでいつの間にか諦めてしまって、富士山の近くを走るときに寝てしまっていたのでは、とうとう富士山を見ることができないまま一生が過ぎてしまいます。
 たとえ姿が見えなくても、そこに富士山があるということを信じること。これこそが運とのいいつあい方ではないでしょうか。
「見ないのに信じる人は、幸いである」というイエスの言葉があります。
 トマスはイエスの十二人の弟子の一人でした。イエスの死後、彼の前に現れたイエスの姿を見ながらも、それでもまだ復活を信じることのできないトマスの手をとり、イエスは釘で貫つらぬかれた手と足の傷を彼に触らせます。そのときに「ああ主よ、復活されたのですね」とトマスは言いました。その彼に対してイエスは先のように語ります。「トマスよ、私を見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである」
 考えてみれば、運やチャンスというものは、日には見えません。だからこそ、自分も神様に愛されている、大切にされている、苦しみも私の成長のために与えられたのだ。そしてその後に、必ず私にも大きなご褒美(ほうび)を用意してくださっている。僕はそう信じています。
 開いた話ですが、世界の大富豪の99パーセントが、かつて一度は破産を経験しているそうです。その数字の真偽はわかりませんが、面白い話だと思いませんか。

人間は生まれるときも死ぬときも一人だといわれていますが、人間は孤独な存在なのでしょうか?

 一人で生まれてきた人間はいるのでしょうか?母親のお腹のなかにいて、母親の苦しみを経て、この世に生まれてきた、その意味で人間は一人ではありません。命自体が、自分一人の力で得られるものではないからです。
 僕はよく音楽会などで指揮をするのですが、そのときは、上から下にタクトを振るのではなくて、下から上に向かって振ります。「みんなついてきなさい」ということではなく、みんなの歌を引き出したい、心の中を引き出したいという、そんな気持ちでタクトを振っています。
 音楽を通して演奏者も観客も皆がつながっている、その一体感をいつも目指しているのです。
 確かあれは、ある合唱団の演奏会のことだったと思います。
 指揮者を見たときに、僕は驚きました。ふつうはステージの上で指揮をするものですが、その指揮者はステージを離れて聴衆のなかに入って指揮をしている。
 聴衆を巻き込んで、会場全体を包み込むような一体感が生まれました。そのときに、聴衆のなかに入り込んで皆を惹(ひ)きつける指揮者の技というものを見せてもらった気がしました。こういう手があったかと、僕もさっそくとり入れて、観客席から指揮をするようになりました。
 一体感というのはいいですね。自分と相手との壁がなくなって、一緒に感じ合うことができる。仏教では、お葬式にみんな数珠(じゅず)を持ってきます。数珠は、みんなの心を結ぶもの。愛する人との別れのときに、みんなでお焼香をして、一緒に煙に巻かれる。そういう風なもので僕達は一体感を覚えるのです。
 老いも若きもなく、一緒に感じ合うということを僕はずっと続けたいと思っています。そんな風に一体感を感じ合える場所をたくさんつくりたいと思っています。
 一人一人をつないで数珠をつくっていくような場所。数珠つなぎという言葉もあるように、一人一人の形は実は違うようだけれども、みんなが一本の糸でつながって一つになれるような機会を増やしていきたいと願っています。

『生きていくあなたへ 105歳 どうしても遺したかった言葉』日野原重明/幻冬舎より抜粋転載

日野原重明さん

 

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