コラム

生きていくあなたへ105歳どうしても遺したかった言葉①

どうしても遺したかった言葉
いま、最後の力を振り絞って私がしたいのは、あなたとの対話です。
私が言葉によって支えられてきたように、迷い傷ついたあなたへ、私の最期の言葉を伝えたいのです。

日野原重明

年をとると病気をしたり、よいことばかりではないと思うのですが……先生はそれでも105歳まで長生きして幸せだと思いますか?

 105歳という年齢……。よく今日まで生きてこられたなと思います。神様のお恵みですね。
 僕はいま105歳、今年の秋に106歳になろうとしていますが、長生きそのものを目標にして、ここまで生きてきたわけでもありません。
 確かに僕も病を持ち、思い通りにならない自分自身と四苦八苦、戦いながらの毎日です。車椅子に乗るようになってからは、特に自分の思い通りにならない不自由なことが増えました。
 それでもやはり長生きしてよかった。長く生きるというのは素晴らしい、そう思っています。というのも、100歳を超えたあたりから、自分がいかに本当の自分を知らないでいたかということを感じるからです。
 世の中でいちばんわかっていないのは自分自身のことだ、ということに気づくことができました。これは、年をとってみないとわからない発見でした。
「人生の午後をどう生きるか。選ぶ物差し、価値観が必要で、自分自身の羅針盤を持たなくてはならない。午後は午前よりも長いから」
 
80代の頃の僕が書いた言葉です。僕なりに自分自身の羅針盤を探求し生きてきたつもりでしたが、100歳を超えたいま、「ああ、いままで探求してきたことはほんの一部であり、真の意味では、僕はまだまだ自分のことをまったく理解できていないのだな」と心から感じるようになりました。80歳の頃の自分がかわいかったなとさえ思います。
 こういうと、これまでの人生を否定しているように聞こえるかもしれませんが、そうではなく、105歳のいま、未知の自分を知ることができたという気づきに価値があるのです。
 人生の午後が長いということは、幸せなことです。
 物事の真理というのは、すぐにはわかるものではないと実感しています。時間をおき、繰く り返し考えることで、後になってだんだん本当の意味が姿を現すのです。
 人生100年時代といわれるなかで、長生きするのがこわいという人も多くいるでしょう。すぐに答えが出ないものには価値がないという見方をする人もいます。長生きすると孤独になるのではないか、とか、あるいは経済的な不安もあるでしょう。人生100年時代というのは未知の世界ですから、未知のものを恐れる気持ち自体はしかたのないことだと思います。
 ただ、長生きするということは、わからない自分と出会う時間がもらえるということです。完全にわかりきれるとは思わないけれど、自分の姿をどんどん知っていく喜びは年をとったことでより実感するようになりました。
 あなたといまこうして話している瞬間にも「ああ、僕にはこういうところがあるんだな」と気づかされることの連続なのですから。

最近感動する出来事が少なくなってきました。年をとったせいなのでしょうか?

 僕はいまも、あなたとの対話によって「感動」という心の運動をしています。
 ところで、僕は最近絵画を習い始めましたが、これがとっても楽しいのです。
 美しいなと思った花を描こうと思ったら、その花をいろんな角度からじっと眺める。この花のどこが美しいのだろうと思って観察していると、花びらに日の光があたっている様子が美しい。それを表現したらまわりの人にも絵を褒ほめてもらえて、そんなときはすごく嬉しいですね。
 新たに何かを始めることのなかには、心が躍動するきっかけがたくさんつまっています。そう考えると、僕がどんどん新しい挑戦をするのは、感動を追いかけているからかもしれません。
 とはいえ、老人になって時間もできたことだし、何か新しい趣味をつくらなければいけない、と肩に力を入れる必要はありません。新しいことを始めるよさというのは、何歳になってもこれまで知らなかった自分の姿を知れるということ。それが感動することにつながるのです。
 僕の場合、どういうものを、どういう表現で描きたいと思うのか。絵を始めるまで気づいていなかった自分を発見できた。そのことによって、絵画だけにとどまらず、僕にはまだまだほかにも自分の知らない可能性があるんだなということを実感できるのです。
 だから趣味の上達・習得ということ自体にこだわる必要はなくて、新しい友人をつくったり、趣味を始めてみたりすること自体に意味があります。たとえば日常の中でいつもとちょっと違う道を散歩してみるとか、久しぶりに美術館に行ってみるとか、そういった小さいことでももちろんいいのです。その中にたくさんの発見があるはずだからです。
 最近僕は、「運動不足」より「感動不足」のほうが深刻なのではないかと感じています。だからあなたとも一緒に心を躍動させて、感動の気持ちを分かち合いたいなと思うのです。

日野原重明さん

 

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